音速ライン
『from shoegaze to nowhere』(フロム・シューゲイズ・トゥ・ノーウェア)インタビュー
INTERVIEW[2013.10.05]
これ聴いたときに、この二人ってどういう音楽が好きなのかなって
俺等のルーツを分かって欲しかった。。

1年8ヶ月ぶりのアルバムは2人のルーツも垣間見える、盛り沢山な12曲!
いろいろあっても「その先」へ、進んでいく勇気をくれる、エールのような作品だ。
音速特有の切なさが疾走していく感覚も健在! ライブが見える音像にも注目!注耳!
●TOTEとしては初めましてです!よろしくお願いします。ここ一年のことから教えてください。
大久保剛(以下 大久保):去年の秋に、アコースティックミニアルバム『Grateful A.C.』をリリースさせてもらって、それと同時くらいからレコーディングが始まり。
●あ、前作からすぐだったんですね。じゃあ制作的には一年弱で?
藤井敬之(以下 藤井):そう、結構時間かけてるんだよね。
大久保:その間色々やらせてもらって、「風とロック」のツアーに参加しつつレコーディングしてた感じですね。
●はい。ライブとレコーディングの一年だったと。そして結成10周年に突入していますが、実際10年越えてみて、どうですか?
大久保:実感そんな無いんですよね(笑)。実際なる前は、「10周年だなー」って思ってたけど、実際なってしまうと、実感が無いと言うか。
藤井:俺も(笑)。だから、その質問された時に俺が思うのは、「藤井さん、俺がやってきたバンド史上、一番長い期間が過ぎました」って、大久保に2年目の時に言われたのね。
●2年目(笑)。
藤井:すげーしたり顔で(笑)。
大久保:ちょうどデビューくらいの時だね。
藤井:2年以上続いたこと無かったらしくて。
大久保:それまでのバンドは。
藤井:それが…まさか10年やるとは思わなかったけどね。うん。何か、10年続くと思ってなかったって言うよりは、長く続けようっていう目標も無かったって言うか。
大久保:最初は無かったね。
藤井:だから10年っていう単位で見てないっていうか…ずっと、一生やってく(笑)つもりでいるわけで。ただみんなはね、10周年って言ってくれて。
●はい、やっぱりお祝いしたいですからね。
藤井:ああ、だよね? でもボーっとしてたら終わっちゃうから、デビュー10周年が再来年なのね。そこで、みんなが喜ぶようなデカイ事やろうかなって。
●楽しみにしてますね。じゃあ気が付いたら10年経ってたっていう感覚ですか?
藤井:そう、目の前のハードルを越えていってたら今があるっていうか。
大久保:ああ、そうだね。
藤井:それ言ったら、一番計画通りに進んだのはLoft時代かな。
大久保:2004年のね。
藤井:そうそう。Loftの樋口さんと計画年表作ってね、ここでこうなってて、とか、それが眼に見えてかなって行った時期が印象に残ってるね。
大久保:うん、『うたかた』出してから、『スワロー』出すまでの一年間。
藤井:本当にその通りになっていったからね。スゲーな樋口さんって今にして思うね。色々やってたなぁって。
●着実に10年やってきて、今年も新しいアルバムが出来て、やっぱり嬉しいです。10周年おめでとうございます。
2人:ありがとうございます。
●ちなみに、ここ最近の10年選手は「気が付いたら10年来てた」って言う人が多いです。
藤井:ああ、みんな適度に馬鹿なんだと思うよ(笑)。物凄く、現実に直面してないんだと思う(笑)。その分、音楽とは向き合ってるんだけど。社会に対してはどうなのかな(笑)。
大久保:あははは。

●ではアルバムについて。アコからは一年弱ですが、オリジナルアルバムとしては1年8ヶ月ぶりですね。どんな制作でしたか?
藤井:『Lost』が一番最初に出来て、何か色々パーツごとにこういう曲必要かなとか、徐々に埋まっていった感じかな。『ゆうれい』も早く出来てた。『Lost』と『ゆうれい』が俺の中で最初に出来てて、『ゆうれい』は震災で避難している人たちの曲なんだけど…要はさ、汚染されちゃってて、絶対に戻れなくなっちゃってる人達がいて、新しいところに行っても何か居場所が無くて。どこ行ったらいいのかなって。
●その、『Lost』も『ゆうれい』も、辛い目線から前を向く曲じゃないですか?そこから出来ていった?
藤井:うん、そうだね。『Alternative』でその辺は放ち終えて、『Grateful A.C.』でちょっとリセット出来て、だからアコースティックで洗浄を終えて、その辺とかぶってる曲がこの2曲なのかな。
●せんじょう?
藤井:自分の感情に対しての洗浄。
大久保:洗われるほうね。
藤井:多分アコースティックライブと『Alternative』で、その辺がちょっと気持ち的にフラットに戻って。それでも前を向かなきゃいけないなって処で、プラス、音楽で何をやっていこうか?っていう。ライブの意味とか、考えた時に、気分が良くなるとかスッキリする様な曲が作りたいなって。ライブで聴いてもみんなで前向きになれる、あと後ろ向きな事言っててもサウンドに乗せれば前向きになるとか。そういう軸でアルバムを作ろうと思って。
●前作よりもメッセージが進んだ気がしたんですよ。前は現状とか怒りとか葛藤を確認するような処もあって、今作は別の想いが乗ってると感じて。やっぱり、「その先に」とか、明るい気持ちになる物を考えて?
藤井:そうだね。そこが一番音楽に求められてる物だなって思ってね。悲しくてメソメソしてるより、それを踏まえてどう前向きに行こうかって。だから『未来サントラ』の世界観に戻ってきてる。
大久保:うん。
藤井:色々やられてて、自分に対する応援歌みたいな。そう書いた『未来サントラ』が結果みんなに広がって、そんな感じに近いかな。みんなで…福島の人だけを応援するって訳じゃなくて、色んな事やられてる人達みんなに対してだね。いつも言ってるけど、人生一度きりなんだから。みんなで、何か出来るんじゃないの?て。一人で抱え込まないで。そういう処で作ってるかな。今回のアルバムで一番言いたいことは『傘になってよ』で言ったかな。
諦めたら終わりだから、前向いていった者勝ちと言うか。
歩き出すしかないし、止まっちゃったらそれまでだから、歩き続けることに意味がある。
●はい。藤井さんも福島在住ですし、色々辛いこともあると思うんですが、でも、音楽を発する人として、そういう気持ちになった?
藤井:発する人っていうよりは、福島に住んでて日々感じる事の中に、やっぱりこう、どうしようもない事がいっぱいあるわけで、汚染水の問題だって片付いてないし、色々まだまだなんだけど……でもやっぱり日常生活を暮らしていくには、俺は音楽っていう物に頼るって言うか。ずーっとそればっか考えてるとしんどくなっちゃうから、音楽を聴いて忘れる時間とか、ライブに来てみんなで同じ気持ちで発散させて、ガス抜きが出来るアルバムにしたかったんだよね。聴いて、何か前向きになれる。それはやっぱ自分に対してもだし。自分に対してのそういう気持ちが、ゆくゆくはみんなの物になれば良いなって。
●大久保さんはどうですか?
大久保:前回のミニアルバムを作った段階で、出し切ったんで、次はもうそれしかないんじゃないですかね、単純に。あんまり、ガーッて辛い方に行き過ぎると聴くほうも疲れちゃうから。結構、『Alternative』を出した時に、聴く人によっては重い、受け止め辛いっていう意見もあって。勿論良いアルバムだと思ってるし、それに関してはマイナスだとは自分たちは思ってないので。ただ、そう言われればちょっと気になるけど、それも必要だったと思うし。
藤井:うん、立ち止まっちゃう時って、スゲー視野が狭くなっちゃってる事に自分では気付かないでしょ?そんなときに聴いて、あ、なるほどなって思ってくれれば。
大久保:そう、気付きね。
藤井:ヒントが色々隠されてたアルバムだと思ってたんで。
●はい。今作は世界がひらけた気がします。『Alternative』があったからこその、今作で。音的にも凄く遊んでるし。
大久保:音は遊びましたね(笑)。
藤井:そこはね(笑)。楽しくライブやってる姿しか浮かんでなかった。このタイミングで、スリーピースでもう一回やってみよっか?って。
大久保:合宿で曲を詰めてアレンジしてるときに、キーワードは三人でも再現できるアルバムって良いなって。
●ちなみに今回のレコーディングメンバーは?
藤井:タナカジュンさんと、俺等だけで。
大久保:鍵盤で吉田トオルさんとか、ゲストちょっと入れて。
●じゃあ基本3人でミニマムな感じで。
大久保:そう、被せギターが少ない分、上物を入れるとかにして。
藤井:多い時俺は10本くらいギター入れてた(重ねてた)んだけど、今回は最大で3~4本で。あっと言う間にギター録り終わるっていう。
大久保:音の作り方もそれに合わせて変わって。
藤井:音の隙間も意識したし、風通しの良いアレンジになってるよ。
大久保:今まで以上に立体的な音になってると思います。
藤井:うん、逆にね。
●でもシンプル感はあんまり無いですね。
藤井:そう、だから不思議なんだけど、迷いが無い時のギターの入れ方って、頭の中で聴こえてた音がちゃんと聴こえてるから、少なくて済むんだよね。10本の時とかって、1本入れて、いや、違うなって、増えていって。でもコレとコレだなって分かってると、他に入れる必要性を感じないんだよね。だから迷いが無いアルバムなのかも。うん。
●じゃあレコーディングには時間がかからなかった?
藤井:録りはね。
大久保:録り自体は。曲は吟味しながら。
●はい。始めに『Lost』と『ゆうれい』があって、そこに寄せたというよりは、そこから広がっていった?
藤井:うん。
大久保:確かに今回ってさ、「アレ入れたからコレ足りないよね」っていうバランスの取り方とか、いつもと違うよね。
藤井:あ、でもね、それは俺が今まで以上に水面下で動いてた。
大久保:…そういう事ね。
藤井:で、めちゃくちゃ、釣りをしてた(笑)。
大久保:俺、完全に釣られてるんじゃねぇか。喋れねぇじゃん!
全員:わははは(笑)。
●じゃあ藤井さんの中では完璧にイメージが出来てて、誘導していった?
藤井:そう(笑)。
大久保:何だよそれ!(笑)完全に恥ずかしいよ!(赤面)そうか…。
藤井:でも、自覚無くてこうやって釣られてるのがベストだと思うから。
大久保:そうですかー。(悔しがる)
藤井:(笑)要所要所の曲は全部釣ってて、半分以上揃ってから、足りないものを作っていった。昔の俺等だったらさ、『Beer can』とかアルバムに入れないと思わない?
●昔…入れたくても入れるのを許されない気がしますね(笑)。
藤井:だよね(笑)。そこを入れられたっていうのも、等身大のキャラクターを分かってもらった方が良いなっていう。でも、今回一番デカイのは、ルーツを分かって欲しかった。
●ああ、それは分かりますね。見えます!
藤井:これ聴いたときに、この二人ってどういう音楽が好きなのかなって分かって貰いたかった。若い子には新しく聴こえて欲しいし、ルーツにこんなのあるんだって辿って欲しいし。同世代には懐かしいな、俺こういう曲好きだったなって、思って欲しい。それが根底にはあるね。
●そのルーツを見せようっていうのは何かきっかけが?
藤井:ぶっちゃけね、若手のバンドとかと打ち上げした時に「学生の頃聴いてました」とか、「コピーバンドしてました」とか、言われんだけど、
大久保:それ、もれなく言われるんですよね。
藤井:そう、もれなく言われるから、じゃあ他でも言えよと(笑)。そう思ったときに、俺等もどんな先輩に影響受けたとか言ってないわって。
大久保:本人にしか言わなかったよね。だからみんな一緒なんだよね。
藤井:そう大体同じなんだよ。悪気は無いんだけどね。でもそれって繋がらないし、やっぱ繋いでいかなきゃいけないなって。だから今回あからさまに分かるようなアレンジも入れて。どんな曲演ったって、俺らが演れば俺らの曲になるから。
●それもあってこのタイトルなんですか?『from shoegaze to nowhere』(フロム・シューゲイズ・トゥ・ノーウェア)と。これジャンルとしてのシューゲイザーの事ですよね。
藤井:そうそう(笑)。シューゲイザー通ってるとは思われてないから。
●でもギタープレイとか見れば通ってるのは分かると思うけども。
藤井:あ、それはね、そう分かるのは同世代とか。
大久保:俺もそれさっき話してて意外だった。
藤井:そう、大久保はシューゲイザー通ってるのはみんなに伝わってると思ってた。俺は伝わってねぇの分かってたけど。
●ああ、年齢もありますよね。シューゲイザーって言葉自体を知らないとか。
藤井:そうそう(笑)。
●はい。タイトルはルーツが分かりつつも現状が分かるような。
藤井:そう、今は、当時シューゲイザーが好きだった頃とは考えられない処に来てるわけで、だから人生何が起こるかわかんないよって事も含めて。
●はい。では1曲ずつ曲紹介をお願いします。

◆以下、収録曲のネタバレも含みます。アルバムを聴いてから知りたい方はご注意ください。

■M.01 G.B.V
藤井:これはね、「Guided By Voices」っていう俺が好きなバンドのことなんだけど。このバンドの名前もサウンドも好きなんだけど、意味が好きなんだよね。声によって導かれるって素敵だなって。「Guided By Voices」のボーカルってめちゃめちゃ多作で出来すぎちゃって、頭が変になりそうだって(笑)言ってて(笑)。
大久保:同じじゃん(笑)。
藤井:収拾付かなくなってデモのまんまで出したりもして(笑)その辺も好きで、俺(笑)。同年代には、これ「Guided By Voices」でしょ?って言われた。好きな人は好きだからね。だから気になった人は掘り下げて聴いてみてくれれば良いな。
●なるほど。ルーツの掘り下げですね。
藤井:…なんかさ、今回インタビューで話してると、他のバンドのプロモーションばっかになってて(笑)。
大久保:他のバンドのプロモーション(笑)。
藤井:それでも良いんだけどね(笑)。
●いやいや(笑)。タイトルにもありますけど、それもあって「導灯」と?
藤井:うん、導かれた先がさ、分かんなくたって別にいいじゃん?答えがあると思ったら大間違いだよ。そういう事も言いたかったんだよね。答えを求めれば求めるほど辛いこともあるからね。分かんない事は分かんないままで別にいいし。