Any 『視線』工藤成永インタビュー
INTERVIEW[2015.06.24]
今出来る精一杯のことをやったので、やっぱり評価してもらいたいなって。
ちゃんと反応があったら色んな気持ちがまた生まれると思うんです。
その上でまた曲作りをしていきたい。

6月24日、ニューアルバム『視線』をリリースするAny。
「ようやくこれからのAnyに向けられるようなものが出来た」と言う今作は
ヒックスヴィルの木暮晋也氏をプロデューサーに迎え制作された。
メジャーを離れ自分達で活動してきた、この4年間の集大成とも言える音源について、
ソングライターでありフロントマンの工藤成永に話を聞いた。
●ニューアルバム『視線』は正式な音源としては4年振りのリリースとなりますよね?
工藤:そうですね。ライブ会場限定の『抱擁』を挟むと2年振りとか。
●まもなく発売となりますが、今はどんな心境ですか?
工藤:今までで一番実感があるかもしれないですね。デビューが大学生の時だったから、その頃は自分のCDやインタビューを載せてもらった雑誌がお店に並んだりするっていう、その感覚に呑まれてた。まさか自分が作ったものが世の中に出ると思っていないし、自分のものだと思えないというか。でも今回は制作にあたって、費用も自分達で出したりコツコツ作ってきたから、物凄く実感がある。わかりやすいですよね、凄く。
●自分達で一から作って、自分で出すっていう。
工藤:そう。その辺のスーパーに食材を買いに行って、こんな感じに切って、料理して、人に食べてもらうっていうような。
●このリリースのなかった4年間というのが、Anyにとっては重要な期間だったなと端から見ていて思うのですが、振り返ってみてどんな期間でしたか?
工藤:とにかくライブを沢山やっていたので。
●月に2~3本はやっていましたよね。
工藤:そうですね。何を表現したいのかっていうのは常にライブから発見してたし、『抱擁』を出した頃から弾き語りも増えて、個人の活動も増えたりしたんですよね。
●ベースの大森君もドラムの高橋君も他のミュージシャンのサポート活動をしたりしてましたね。
工藤:はい。そこで得たものが沢山あって、彼らもそれをやることで、「Anyってこんなバンドだったんだ」とか「いいバンドなんだな」って再認識したりして。
●そのライブを沢山やったり、個々でも活動したりっていうのは、3人の中で話し合って決めたことだったのですか?
工藤:そのメジャーの契約が終わった時に、当然これからどうするって話になって。そこで僕は曲を書いているから、少し負い目もあったんですよ。正直に言うとね。
●負い目?
工藤:その役割を果たせなかったと。メジャーにいることでもっと踏み出せるはずだったり、広く聴いてもらえるように出来たのに、もっといい曲を書けなかったものかと。
●それはバンドとして?メンバーに対して?
工藤:二人に対してです。もちろんお客さんに対してもあるけど、何よりメンバーに対して、そういう気持ちがあって、謝った覚えがある。
●二人はどう仰ってました?
工藤:「工藤君も工藤君が書く曲も好きだから一緒にやってるから、それに対する結果がこうだとしても、そこは気にしてないよ」って。でも僕はそういう気持ちがあったんですよね。もちろん自分の曲に自信持ってやってますけど、誰しもそうだけど、時間が経つともっとああすれば良かったとか思うし、それはより責任を持ちたいから思ったんですけど。でも多分まだまだ成長出来るなって、希望の方が大きかったので、まだAnyは続けられるなと。
●また自分達で頑張っていこうって思えたんですね。
工藤:そうですね。このままでは駄目だ、バンドを変えていかなきゃ駄目だなっていう気持ちと、やり残したことがあるし、ここで終わってもしょうがないぞっていう気持ちがあったので、とにかくバンドを続けていくことを前提にもっと勉強していこうと。
●その結果として、ソロで活動をしてみたりサポートをしてみたりということに繋がっていくわけですね。
工藤:違った風を自分達に入れようと思って。そのタイミングでAnyの中にも清野雄翔さん(harmonic hammock)や坂本夏樹さん(チリヌルヲワカ)を招いて編成を増やして、表現の幅を増やしていこうとなったんです。
●2013年頃から5人編成のライブが増えていきましたよね。そのことが今回のアルバムにも繋がっていると思うのですが、清野さんと坂本さんとの出会いは?
工藤:chocolat&akitoのライブに誘ってもらって出演した時に、ヒカシューの清水一登さんとTICAの石井マサユキさんとAnyの5人で演奏したんですね。その時に清野さんが見にいらしててご挨拶をさせてもらって、そこから少し時間が空いて、清野さんにお願いした感じです。夏樹さんはShe Her Her Hersで対バンしたんですが、共通のお知り合いが何人もいて、お互いに色んな人に話を聞いていたんですよね。ライブ見た時にかっこいいなと思って、弾いてもらうようになりました。だから人と人で繋がっていく中で出来ていった感じです。今回は全部そうなんですよね。知り合いを通じて紹介してもらったりとか。
●確かに。でもそれも3人の努力があるというか、誰かに出会おうとか自分達をアピールしようとかやってきたからこそですよね。
工藤:そうですね。1、2年前よりも今の方が更にガツガツしてると思う。もし今Anyに興味持ってくれなかったとしても、いつか絶対興味を持ってくれるだろうと思って連絡しているので、そのタイミングが今じゃなくてもいいかなと思ってます。
●5人編成でやるようになって、気づいたことはありましたか?
工藤:歌い易いから、自由に歌えるってことが一つ。あとはやっぱり全然ストレスがないこと。Anyってバンドは3人だし、3人がいいとか5人がいいとか、人によって好き嫌いはあると思うんです。でも僕は今日もリハしてきましたけど、5人でやるとゾクゾクしますね(笑)。
●(笑)。5人でやるようになって、Anyはこういう音を鳴らしたかったんだろうなって分かり易く見えた気がしました。
工藤:それは友達のバンドとかにも言われましたね。「Anyの音楽にはこういう色やディテールが隠されてたんだね」って。音が足されることによって分かり易くなったって。

●今回のアルバム『視線』はかなり前に制作されていましたよね。
工藤:レコーディングしたのが去年の4月前後なので…
●曲作りも考えるとかなり前になりますが、どの辺りからこのアルバムのモードになっていったんでしょう?
工藤:2年前とかには曲自体はありましたね。
●それは曲があってアルバムが見えてきたのか、アルバムのイメージがあって曲を作っていったのか、どちらですか?
工藤:曲が出来たからアルバム作ろうかなって感じ。そもそもアルバムってどうやって世の中に出せばいいんだろうって感じだった。
●アルバムをリリースするためにはどうすればいいかってことですね。
工藤:そうそう。だからそれを色んな人に聞いて回ってとかをやっていて。それが今回のアルバムをプロデュースしてもらった木暮晋也さんとの出会いに繋がるんですけど。僕が弾き語りを定期的にやらせてもらっている下北沢leteの店長さんに、ある時「木暮さんとライブをやりたい」って言ったんです。それでお願いしたら木暮さんも快諾して下さって、2マンでライブをやったんです。その時に木暮さんと話していて、「僕ら前に片寄さんにプロデュースしてもらってたんです」とかいう話もして、その流れで図々しいんですけど、「ライブでギター弾いて下さい」ってお願いしたんです。そしたら「いいよ」って(笑)。それで月見ル君思フでライブをしたんですが、そのライブの前に「アルバムを作りたいんですけど、一人で作れないんですよ。一人で作ると内省的なものになりすぎるし」って話をして。その時にポップなものを作りたいって思ってたんで、今のアレンジで作るのは違うなって思ってたんですね。もう一皮むけないとって。それで木暮さんがこれまで関わって来たミュージシャンの音源を聴いたり、ギターのアレンジとかを聴いていると、これは今のAnyに必要なものなんじゃないのかって思って、木暮さんにプロデュースを依頼したら、それも快諾して下さって。「昔、片寄君とやってたなら世間的にも面白いんじゃないか」って言ってくれて、そのままエンジニアの方も最近ヒックスヴィルでやってもらってる人がいるからって紹介してもらって録ったんです。録る上でリリースするための手段とか色々な考えとかも教えて頂いて。
●なるほど。曲はこの7曲以外にもありましたか?
工藤:ありました。木暮さんと聴いて選びました。
●どういう視点で選んだのですか?
工藤:色々考え過ぎてたからやりたいことやろうって。
●アルバム全体のイメージって事ではなく、1曲1曲?
工藤:そうです。曲単位でやりたいことをやろうと。今までもやりたいことやってたんだけど、自分の信頼してた人の中でも色んなことを言う人がいたから、正直よくわかんなくなっちゃって(笑)。
●メジャーでの活動をする時によくある話ですよね。
工藤:その中でいいものを作っていくっていうのがプロフェッショナルなんでしょうけど、僕はよくわかんなくなっちゃって。
●素直ですしね(笑)。
工藤:そう、聞いちゃうの(笑)。そこは僕の反省点ですよね。でも今回はやりたいようにやったから、それに対してどういう反応があるのかってところでは今までの中で一番期待と不安が大きい。アレンジも元々のものから変わったんですよね。木暮さんは「どんな感じでやりたい?」って聞いてはくれたんですけど、一度お任せしますって渡して、こんな感じでやりたいんだけど、どう思う?ってことに対して、僕は基本的に全部OKって言ってました。
●曲が良くなるなら何でもという感じ?
工藤:客観的に曲を聴いて、ここをもっとこうしたいとか思ったりするじゃないですか。例えばもっとこういう髪型だったらいいのにとか、こういう洋服着たらいいのにとかと同じで。そういう人の印象って凄く大事だなと思って。
●それは木暮さんに絶対的な信頼がないと出来ないことですよね。この人のセンスになら任していいっていう。
工藤:そうですね。でももしそこに差があったとしても、それは楽しいなと思ったんですよ。
●どういう風にこの曲が転がるかを楽しめるようになったんですね。
工藤:そうなんです。サポートでもそうなんですけど、「もっとこんな風にやりたいんだけど」って言われたら「OKです!」って。それを何回か試して、それでも違うなと思ったらちょっとだけ言う。どっちかというと委ねてますね。
●そういう意味でいくと、今回の作品は3人でというよりは、木暮や清野さんやみんなで作っている感じが強いですね。
工藤:そうですね。