a flood of circle『NEW TRIBE』インタビュー
INTERVIEW[2017.01.18]
一回壊して作り直したa flood of circleがこのアルバムに入ってます。
届けたい音楽だったのに、分かってくれる人だけに向けてたんじゃないかって思って。
それを壊そうと思ったんですよ。それがこの『NEW TRIBE』っていう言葉になった。

結成10年を経て彼らが掴んだのは新しく生まれ変わった自分たちだった。
新境地に立ったフラッドが放つのは最新の衝動を詰め込んだ12曲の「挑戦」盤。
更に『NEW TRIBE』が世界配信される事が決定!今こそフラッドを聴け!
●新譜、めっちゃくちゃ良いですね!
佐々木:そうでしょう?ヤバイんですよ。
●今回振り幅っていうかすっごい色んな曲があったので正直ちょっと戸惑いました(笑)。構想は10周年イヤーからですか?
佐々木:その直前の9年目からですね。今まで色々な事件があったから、10周年はこう、カラッと楽しく過ごしたかったっていうのもあって(笑)年間計画を早めに立ててたんですよ。その第一弾として、新しいチャレンジとしてロンドンでレコーディングするっていうのを決めて。それがアルバム制作のきっかけになったって感じですね。そういう風に挑戦的な計画を立てられたのは、やっぱり事務所作ったのが大きいかな。去年(2015年)マネジメントの会社を立ち上げて。…Duranが抜けた後、The SALOVERSのセイヤがサポートしてくれた時期があって、で次に爆弾ジョニーのキョウスケがサポートで入って、でシングルの『花』を作ったのが9年目までの流れなんですけど。結構その辺が俺的にはきつくて。その…事務所を作るのにも結構色々あったし、この短い期間にメンバーどころかマネージャーまで変わってるし。結構『花』は必死に作った感じが俺の中ではあって。もう、自分の人生経験を一回で全部吐き出すみたいな曲だったんですよ。きつかったけどそれを逃げずに作り切れたのが結構デカかった。その後は夏にアルバム作ろうってザックリ決めて。そういう意味では動き出しのタイミングは2015年だけど、実際の一番のターニングポイントは2月のロンドン。ザブ(Xavier Stephenson ザビエル・ステーブンソン)っていうエンジニアと出会ったのが一番の大きな出来事で。実際のアルバムの起点はそこですね。
●アルバムの方向性とかを決めたのはロンドンだったの?
佐々木:とにかくロンドンで3曲録ったんですよね。本当にそれはとりあえずで(笑)チャレンジだったし、録った時には何に使うかも決めてなかったんですよ。
●あ、レコーディングありきだったんだ。
佐々木:そう、その前に何か違う体験をするっていう考えがベーシックにあって、その為にロンドンでレコーディングしたりライブしたりしようっていう順序だったんで。実際にロンドンに「行く」ってなってからじゃないと曲を書けなかった。スタジオチョイスして、こういうエンジニアとやりますって連絡取って。スタジオをチョイスする時点で古い歴史のあるスタジオとか、ガレージロックを録ってるところとか…色々候補はあったんですけど、フラッドでやるなら一番サウンドがガッと広がる大きいところでやりたいなって思って。メトロポリススタジオはアデルとかもやってたし、しかもザブはリアーナとかやってたので。ロックバンドだけじゃなくて色んなサウンド、今一番新しいサウンドにタッチしてる人と仕事がしたいと思ったんですよね。そうじゃないとチャレンジする意味が無いし。それで、ザブと会った時に自分も凄い気合が入ったんですよ。ここは多分世界で一番凄い音を作ってるから、世界で一番カッコイイ曲を書かなきゃだめだと思って。
●自分にも喝をいれていったと。
佐々木:そう。その3曲は良い曲を書いたと思うし、更にメトロポリスでガーンって音が広がって。それが『BLUE』と『El Dorado』と『Flyer's Waltz』なんですけど。3曲ともめっちゃよかったから、どれをリードで切っても良いと思ってたし。そこで手応えが凄くあって、特にナベちゃん(Drs.渡邊)がめっちゃ手応えっていうか、彼の言い方で言うと「目覚めた」らしいんですけど(笑)。
●目覚めた!(笑)。
佐々木:そうなんですよ。10年の中で…特にナベちゃんて邦楽と洋楽の垣根みたいな物を凄く感じてたらしくて。「a flood of circleは邦楽でいなくちゃ」って感じになっちゃってたみたいなんですよ。俺はそういう感覚あんまり無いんですけど、ナベちゃんはそうだったみたいで。それによってつまんなく感じる時があったみたいで…それがロンドン行って、むっちゃ開放されて。自分が成長したっていう部分の手前で、プレイはいつもどおりなんだけどサウンドの処理とかによって、こんなに違う物が出来るんだってザブが見せてくれた。それでナベちゃんは手応えがめちゃめちゃあったみたいで。ロンドンレコーディングが終わってから「夏のレコーディングどうしようか」って話をしてたんですけど、「ザブと続きを作りたい」と。でも正直もう一回ロンドンに乗り込むのはスケジュールの都合上、無理で。じゃあザブに来てもらったらどうだろう?って無理やりオファーして、一回断られかけたんですけど。
●あ、そうだったんだ。
佐々木:「エンジニアを派遣する事自体、ほぼやっていない」と。でもザブとは向こうで完璧に友達になっちゃったんで。
●じゃあ本当にロンドンでの時間が濃かったんですね。
佐々木:そうですね。逆に言うと、向こうでの時間が短かかったのが良かったのかも知れなくて…とりあえず3日間で3曲録音して、ミックスに2日間、マスタリングに1日みたいな、多分ザブ的にはこの3曲をミックスするのに2日じゃかなり時間が足りないハズなんですけど、彼は凄いナード(Nerd)って言うか、オタクなんですよ(笑)。凝り性だし、めちゃくちゃアーティストなんです。さらに、フラッドに乗ってくれた事もあり、睡眠時間削って、白人だから隈が凄くて目がパンパンになるまで徹底的にやってくれて。もう愛だし、フラッドの良い所はこうだ!って音にしてくれたし、逆に素直にこれはダメとか。ダメって言うか…音楽的にダメって事じゃなくてもっと自由にやった方が良いよって。俺が書いた譜面は別にたいした事ない譜面だと思ってたんですけど、「こんなにちゃんと書いてきた奴、初めて」とかって言われて。それもコードとちょっとしたメロディ書いただけなんですよ(笑)。もっと皆、すごいアーティストもバンドも、あんまり決めないでやってんだなと思って(笑)。その場で起こる事を楽しんで作る、みたいな。勿論コンセプトは大事だけど、現場で起こる事はもっと大事で「亮介の頭の中でイメージしてる事を再現する場所じゃなくて、それを皆でもっと爆発させる場所にした方が良い」って言われて、なるほどと。バンドってそうだよなって、俺が今まで忘れかけてた事を思い出させてもらった気がして。ソロプロジェクトだったら俺のイメージをそのまま再現して貰うけど、皆のアイデアを、スタッフも含めて、爆発させる場所なんだよって事を気付かされて。それで、来日のオファーした時に、「あいつらが言ってるなら調整してくれないか?」って向こうから掛け合ってくれて、来てくれたんです。続きを録ろう、ロンドンでの3曲を経てもっと広げようっていうのが8月のレコーディングだったんで。さっき言ってくれたみたいにスッゴイ色んな曲があるとか幅があるっていうのは意識して作りましたね。とにかく出来るMAXまで、フラッドの可能性を広げよう、って思ってました。
●あと、全体的に…勿論今までのフラッドと地続きではあるんだろうけど、全然印象が違ったんですよね。フラッドっぽさを越えてる感じ、バンドっぽさが増してるような。
佐々木:ああ、正にそうで。俺等にとって、a flood of circleっぽい物を作ろうって今まではあって、それが自分達の核に、武器になってるとは思いつつ、それに輪郭をつけ過ぎちゃってたところがあったんですよ。そっから先に出れなくなっちゃってた感じがあったんですよね、無意識に。去年(2015年)とか、姐さん(Ba.HISAYO)やナベちゃんとの距離が歪になってた時期が正直あって。姐さんがお姉ちゃん過ぎる・遠く感じる時があったり、ナベちゃんとは近すぎてめちゃくちゃ喧嘩したり(笑)。
●ああ、言ってましたね(笑)。
佐々木:ロンドンで初めて、3人で良い意味で喧嘩が出来て。
●お!どんな?
佐々木:その時ライブの出来が良くなくて、ロンドンは3本しかライブが無かったんだけど2本目が終わった時に「このまま帰れない」ってなったんですよ。そっから「このバンド何なんだ」って話になって。その距離感の事までタッチしたんですよ。それまでタブー視してたって言うか、そういうモンでしょって何となく思ってた部分…例えばナベちゃんとか、どっかで幼馴染みの4人組みたいなバンドに憧れてる部分があって、それ見て「フラッドはこういう事出来ないでしょ?」とか言ってたりもしてたし、姐さんもそういうバンドをやりたいんちゃうの?ってサラッと言ってたりもしてて。このバンドのフォーメーションにお互い色々思ってる状態があったりしたんですよね。それが『花』が出来てロンドン行って、ザブが認めてくれた事によって、内部的な部分、俺達これからどうなんの?っていう所で凄い腹を割って話せて、その「距離」に初めてタッチ出来たんですよ。
●それは大きいですね。
佐々木:うん。それで、「俺達こうですよ」っていうのを一回全部取っ払おうって。曲作りもそうで、無意識で自らの輪郭を作ってきた物を越えたいと思ったし、曲の幅もそうだしレコーディングの仕方も。今までのフラッドは多分これやっちゃわないっていう、ライブで再現できない事、いわゆるギター・ベース・ドラム・ボーカルっていう、通常のフォーマットだけじゃない部分が沢山入ってるんですよね。さらに、録音した後のミックスとか編集サイドで遊ぶ事とかも。今までなるべく排除してた、今までのフラッドがやってない事をやればやるほど、今の3人の形が出来上がっていって。だから矛盾してるんですけど。凝り固まって「こうだろ」ってやってた方がバンドがバラバラだった。変な話なんですけど。それを取っ払ったほうが皆アイデアも出してくるし。今までのフラッドの形が分からなくなるくらい、バンドっぽくなった(笑)。
●今まで作った土台壊したら逆に固まったと。
佐々木:そうなんですよ。あると思ってた土台が幻だったと言うか(笑)。
●幻!(笑)。
佐々木:土台があって欲しいと思ってたけど、そんなの幻だった。それがロンドンで破壊された感じがして、一回壊して作り直したa flood of circleがこのアルバムに入ってます。
●だからこんなに初めて逢った音の気分になったんだ。
佐々木:うん。そうでしょ?(笑)バンドを一回壊して再生させてるから。曲作りもそうしてて。今まで好きだった自分の音楽も全部一回分解して新しく組み直したっていうイメージがスゲーあって。今までって結構同列で混ぜてたというか、要素を抜き出してブルースのイメージの曲の次にラップの曲が来るみたいな順序で繋げるとかだったんですけど、パーツを混ぜてたり、ブルースもポップも混ぜてその上でジャズが鳴ってたりとか。形を接続するんじゃなくて、形を分解して混ぜるっていう。
●要素自体を融合させた。
佐々木:そう。そういうイメージを持ってたし、メンバーも今は壊して良い時期なんだって、勇気を出して壊していった。
●10年やってても壊すのには勇気がいったと。
佐々木:そうですね。やっぱ、ビビってたって言うか保守的になってたんでしょうね。せっかく作ってきたんだから壊しちゃダメだって思ってたんですよ。バンドの関係性もあったし、壊す勇気が無かった。『花』はその緊張感のピークで出来た曲で。あの時期があったから今があるんですけど。アルバムを作るタイミングはロンドンの経験の後だったんで。どの曲に関しても可能性を広げる事だったり、録る前も録った後もとにかくチャレンジ精神を忘れないようにって(笑)。多分メンバー2人もそうだったと思います。姐さんも作ってる時に…彼女の場合他のバンドもやってるし、フラッドだけじゃないバンドの悩みとかも抱えてると思うんですけど、そういう中で『New Tribe』出来た時に凄い自信を持てたって言ってたし。…究極言うと「私このままフラッドにいていいのかな」って思ってたと思うんですよ。キョウスケが抜けてテツ(サポートギター・アオキテツ)が入る流れもアルバム制作中だったし。サポートギターの一般公募を4月から6月のツアー中にしてて、8月いっぱいレコーディングしてたんですけど、レコーディングスタジオにテツが来てライブのリハしたり曲を教えたりしてて。あ、『WolfGang LaLaLa』のラーラーラーってコーラスはテツも唄ってるんですよ。そういう流れもあって、バンドが生まれ変わるぞっていう瞬間を共有してたと思うし、姐さんが今までで一番新しいところに行くって感じてたんじゃないかな。フラッドって、変な形で良いんだって受け入れられた。

●なるほど。フラッドって、挑戦がスタンダードだったイメージありますけど。
佐々木:あー。9年目までは無意識に、がむしゃらと無茶も入ってると思う。どうにかしたかったし。でも、何かキョウスケが抜ける時点で不安が無かったんですよね、爆弾ジョニーが復活する時に送り出す気持ちもあったし。それはテツが救ってくれた部分もあって。テツはもしかしたら俺達にピックアップされたと思ってるかも知れないけど、俺等はテツに凄い救われて。そういう前向きなモードだったから…ロンドン行きもチャレンジではあったけど、そこはちょっとまだ悲壮感あったと思うんですよ。「どうにかして変わんなきゃ」みたいな。でもロンドン行ってからの挑戦は全部、超・ポジティブで。まあ失敗したらやり直そうっていうのもあるし(笑)、カラっとやっていく感じはしましたね。
●本当にロンドンで色んな事が変わったんですね。
佐々木:そうだし、無意識にあったフォーマットを壊したいと思ってたから。その挑戦は悲観的じゃなくてもっとやっちゃおうぜみたいな。ノリとしては。レコーディングの時もベーシックな形をなるべく壊そうとしてたし。ザブもそういう物を提案してくるんですよ。ロックンロールの歴史も色んな物があるから、ミックスの形もサウンドもあるし、僕らもザブとやりながらまだ甘かったなと、堅かったなと思うんですけど。どっかで色んな影響は受けてるからドラムはこんな感じで、ボーカルの音量はこんな感じとか思ってたのが、ザブは絶対クセを強くしようとするから(笑)。俺も自分の中で絶対やったことないコード進行とか、やってないリズムを入れるっていうのをやってたんですけど、ザブもそれをやってて、変なところで歌が凄く小さかったり、妙なところでスネアがデカかったり、聴いた事が無いバランスで。それを最初に聴いた時に「うーん?分かんない」って思っちゃって。知ってるヤツに戻そうとしちゃったんですけど、ザブに「それの何が面白いんだよ?」って言われて(笑)。確かにって思って。俺、作曲の時点で面白い事しようとしてたのに、結局普通の事しようとしてて(笑)。そういうのもチャレンジで、音を作るところもザブは結構こだわってたし。打ち合わせしてそうなったわけじゃなくて、ザブにそういうニュアンスに気付かされて作った曲だから、スゲエポップなんだけどスゲエ変っていう(笑)。新しい事をするっていう。だから挑戦っていうのが楽しかったです。自分達が一回壊れても作り直せる自信にもなったし、それもメンバーと今のフォーメーションで出来てるから…もうメンバーが変わってほしくは無いけど(笑)、個々が変わっても良いんだって。作り方とか変動しても良いんだって。自信持って挑戦できた。エラーを恐れなかった。
●はい。本当に出会い運は最高だね、フラッドは。
佐々木:そうなんですよ!本当にずっとそう、それは10年間ひとつも変わってない。今、本当にフレッシュな気持ちでいられてるから、このアルバムは攻めてると思うし、攻撃性っていうよりは、音楽の創り方に攻めてる。それが今のモードだなって思える。
●10年やってて、お祝いの年だけになるんじゃなくて、生まれ変わるバンドは珍しいのかも。
佐々木:そうですね。近しいバンドの解散とか休止とかもあって、マジそこは傷ついてるんですけど、俺プリンスが亡くなった事も悲しいし。
●確かに2016年は色んな人が逝ってしまったし色々変わったし。
佐々木:10年くらいやってると俺は30になったし。色々考えますよね。業界も変わってきてるし。お金を何処に掛けるかとかもそうだし。皆食えるのかとか、じゃあ働きながら音楽出来るのかとか。ロックンロールはリスクだなと思ってるから(笑)。リスクを感じて攻めらんなくなったらバンドは辞めた方がいいって思ってる。俺はフロントマンだしソングライターだから、俺が攻める事を忘れたら、フラッドはおしまいってくらい。今まではメンバーが変わることに対して「今日で最後かもしれない」って唄ってきたけど、ある意味他人のせいにしてたなと思うくらい、今は俺だなと思ってて。だから『New Tribe』が出来た先は、また修行モードに入ろうかなって(笑)。