a flood of circle『NEW TRIBE』インタビュー
INTERVIEW[2017.01.18]
●ではこの素晴らしいアルバムについて。タイトルから。まんまですけど、新民族?『NEW TRIBE』。
佐々木:直訳するとね。ちょっと話が大げさになっちゃうんですけど、イギリス行った時に、地球の裏側までだって飛行機乗っちゃえば24時間あれば辿り着けるなって思って。音楽的にもそうだし、自分の身体が移動することも。そう、何か枠をつけちゃうと何処までもは行けないって思ってたところがあるんですよ。自分のジャンルを決めちゃってたような気がして。日本人だからここまで、みたいな。そこを越えた時に、本当に「何人」とかってどうでも良いんだなって思えたし。言い訳してたなと思って。あとイギリスがEU離脱して、ベルギーのテロがあって、イギリスでもテロがあったり…自分が外に出た事によって日本で起こってる事も日本の外で起こってる事も目に入ってくるようになって。その時に、超大げさですけど、戦争とか何人とか何教とか、色んな事が分かれてて殺しあってる壁がどんどん高くなっていって、どんどん分かり合えなくなってる気がしてて、自分がこのバンドはこうだからって壁を作ってた事と凄い同じ事のような気がしちゃったんですよ。届けたい音楽だったのに、誰とも分かり合えない音楽をやってるんじゃないか?俺は?って。分かってくれる人だけに向けてたんじゃないかって思っちゃって。それを壊そうと思ったんですよ。それがこの『NEW TRIBE』っていう言葉になって。何民族とかにこだわらない民族になろうって。ちょっと大げさになっちゃいましたけど。まず自分がやってることを変えたかったし、進化させたかった。だから「生まれ変わるのさ、今日ここで変わるのさ」って。ちなみに特別記念日って会社を作った日の事なんですけど(笑)。
●あ、そうなんだ(笑)。まず、って事で『New Tribe』が1曲目になきゃいけなかったと。
佐々木:あ、曲順はめっちゃ揉めて、最初からこれを1曲目にするって決まってなくて、メンバーもスタッフも『New Tribe』1曲目派と、『Dirty Pretty Carnival Night』1曲目派がいて。俺的には2曲目は今までのフラッドの要素が強い曲なんですよ。だから俺は『New Tribe』が良くて。先にこれを言っちゃいたくて。
●ジャケットは山?
佐々木:うん、これは後付けなんですけど、デザイナーの渡辺さんって方で俺達のデビューのときからやってくれてる人なんですけど、彼に投げて説明ナシの反応がこれだったんです(笑)。これが超バッチリと思ってて。どこの山か何の素材かも知らないんですけど、何か、この歌詞に出てくるからかもしんないけど、何かに挑戦するって事と、誰も辿り着けない場所っていうのを、絵にしてくれたような気がして。日本のサウンドでって言うか感覚で、向こうの人達に勝負出来るものっていう自分のテーマがあって、それって、もっと向こうに合わせてるっぽいバンドって日本にもいっぱいいると思うんですけど、日本語の感覚、例えばスピッツとかのルーツとミックスしてるバンドって居ないと思って、誰も出来ない事をしたかったんですよ。実験的でポップっていう。本当に奇跡みたいなバランスを突きたくて、今。それを象徴してくれてる気がして、だから超バッチリって思ってて。色んなカラーパターンもあったんですけど、このオーロラみたいなのを見て一発でこれだ!って。むちゃくちゃ気に入ってます。しかも初回盤のジャケットはめちゃめちゃキラキラしてるんですよ。
●初回盤をゲットしろよと(笑)。

●では曲紹介に。『New Tribe』はいつ位に作ったんですか?
佐々木:これは、ツアー中でしたね。ザブとやるって決めてからだったんで、それもあって、やっぱり東京の中で話が終わらなかったって言うか。一番それがストレートに書けたかな。地に足着いてない感じじゃなかったんですよ。歩いてるって思ってたし、だからこの曲は空飛んでってないんですよね。歩いたり泳いだり、身体が触ってる物しか書きたくなくて。あとは細胞とか血と肌とか、もう俺が日本人で日本でロックやってるのは核なんだけど、そこで収まんなくて良いって思うから。それが根本にあったかな。
●歌詞を読めば言いたい事はわかりますね。連れてってくれんだなって。嬉しくなりましたけど。
佐々木:そうすね(笑)。少なくとも、俺が見せたいなと思ってる物、フラッドがスゲーデカイキャパで演る時に鳴り響いて気持ち良い曲だと思うし、そん時に自分が書きたい曲もまた増えそうな気がしてて。今出来るキャパでは書けない曲を書きたかったイメージもあるから。そん時まだ誰にも見せてない物を見せたいって思ってる。あ、これによって学校生活頑張れとかは言うつもりないです。それは勝手に燃えてくれって(笑)。
●あはは(笑)。
佐々木:ただ、俺がやろうとしてる事はこうだよって。見せたかった。
●はい、華やかで力強い曲だし。
佐々木:そう、こんなにメジャーキーのイントロでガーンって始まる曲中々なくて。フラッドで。
●ああ、『BLUE』以降かなって感じですね。
佐々木:そう。しかも凄いグラデーションつけてて、このジャケットもそうだし、単色のただ明るい色じゃなくて。一番分かりやすいコードじゃなくて、凄い絶妙なコード使ってて。その成分も入ってるんだけど、微妙な、色んな気持ちが受け止められる。単色の明るさって本当に明るい気持ちじゃないと聴けないと思うんだけど、どんな気持ちの時もそこに混ざれるように意識して作りましたね。今までって同じコードを重ねてたんですけど、一つのコードに対して色んな押さえ方でやってみたんですよ。コードネームが分からないくらい複雑なコードになってて。で、印象は明るいから、俺の中ではトータルしてみると明るいんだけど、本当に色んな人に、枠を越えてどんな人も入ってこれる音色とかコード感っていう物を目指しました。

●では『Dirty Pretty Carnival Night』、ギターがキレッキレな感じの。
佐々木:そうですね。このギターは気に入ってます。この曲はコードからで、今回は和音とかリズムを凄い意識してたから、イントロのコード進行の循環とか、半音階でジャズっぽいのが一個入ってて、めちゃめちゃジャパニーズロック的で、やるかやらないか迷ったくらいなんですけど。逆に日本のロックの感覚と、全然日本じゃない物を混ぜらんないかなって凄く思ってて。今日本にあるもので面白い事出来ないかなって思ってたんですよ。そこに対して俺がアプローチしたのが半音階のコードと、2番の所で。最近のバンドでMETZっていうアメリカのバンドとかもよく使うんですけど、フリクションがよく使ってたコード進行で、マイナーのスッゴイ不協和音っぽく聞こえるコードを混ぜる、そういうトライをしたくて。フラッドもまだやってないコードだし、いかにもジャパニーズロックだなっていうスタイルのビート、それが果たして混ざるのかっていうのを、混ぜた!その中でザブが、サウンド的にメタリックな物…結構ヘビィな音楽なんですけど、そういう感覚って音がスカスカなんだけど立体的っていう物に構造が似てて。音がスッゴイ出てくる所と引っ込んでる所があるから、動きがめっちゃあるんですよね。日本のちょっと前のヤツだと音がパンッパンに前に出てるのが流行ってたり、インディーっぽいのは全部引っ込んでて、ってあったと思うんですけど、その要素がどっちも入ってる。歌詞は完全に後から書いたんで、そういうバンドのイメージで作ったかな。
●じゃあサウンドが歌詞を呼んで来た。
佐々木:そうですね。だから「はみ出せ」って思いっきり言っちゃってます(笑)。そういう感じ。俺結構、テツとかキョウスケとか、変なダンスしてる奴が好きなんですよ。
●ははは(笑)。
佐々木:トム・ヨークとかもそうだし(笑)。多分ダンス出来ないけど踊りたい、だからフォ-マットが無いダンスで気持ちいいんですよね。だって踊りたくて踊っちゃってるっていう。だから変なダンスが起こっちゃえば良いなって、見た事が無いような。

●3曲目『Flyer's Waltz』、先行シングルでもありますね。
佐々木:これはロンドンで録りましたね。
●これMVが凄かったですね。
佐々木:ああ、POPサーカスのおかげですね。『花』を作る前のミュージックビデオの会議からサーカスを入れてやってみたいってイメージがあって。それが一年越しに叶いましたね(笑)。それは『A FLOOD OF CIRCUS』ってイベントがあったのがデカくて。そのイベントのイメージが固まってきた時に、この曲が後から出て来て。イベントの為に書いてた部分もあって、改めてこの曲をシングルにするって時にサーカスにしようってなって。サーカスは金掛かるし無理だよって皆が言ってたところ、ディレクターがやんなきゃ分かんないってチャレンジしてくれて、出来たっていう。ありがたい。言う勇気大事だなって。
●凄い。見てて、本当に上で飛んでる!って。
佐々木:そうそう。俺等も感動しましたね。
●曲自体はイベントありきで出来たんですね。
佐々木:そうすね。そん時に、サーカスっぽい物って何なんだろう?って、サーカスで流れる曲を研究しだしたら、めっちゃ奥が深くて。ヨーロッパの小さい楽団とかが、小さいサーカス小屋に出て来て演るときはピッチがいいかげんだったりリズムも面白いのが結構多くて。ヨーロッパのクラシック音楽と、アメリカから入ってきたジャズみたいな物と、ロマの音楽っぽい泥臭い物が混ざって凄い不思議な音楽なんですよね。イントロのメロディとかはそういうコードとかを分解していって作ったかな。あれをアコーディオンとかでゆっくり弾いたら、めっちゃサーカスっぽくなります(笑)。
●確かに(笑)。
佐々木:この曲はイベントが続く限りはずっと演ってきたいとは思ってますね。曲も凄く気に入ってるからシングルにしたし。
●歌詞的には?
佐々木:歌詞的には…これはメンバー2人に向けて書いてる。最初、サーカスをテーマに色々考えてたんですよ。空中ブランコ、ピエロ、色んな人がいるじゃないですか。サーカスの良い所って何か…命懸けの事を一人でやってんぞっていう、命懸けのパフォーマンスを誰かに預けてやってんぞって思って。その信頼関係とか、バンドだなって思ったし、命懸けなんだけど悲壮感が無いって言うか。皆が笑ったり拍手したりする空間じゃないですか?スゲー緊張感あるんだけど楽しい、っていう。それもバンドっぽいし、正にバンドが生まれ変わるっていう時期でもあったんで。だからそういうコミュニティの歌。お互い色んな物を預け合って、進んでるコミュニティ、そうあって欲しい。それぞれが本気でやってると、これちょっとヤバイかもって思っても「コイツがいるから大丈夫」って進めるし、でも誰も居ないと進めない、保守的になっちゃうから。そういう人達のほうが金稼ぎは上手いと思うんですけど(笑)。

●では『BLUE』に。
佐々木:これは『花』を作った時に一緒に作ったんで、このアルバムの中ではこれが一番最初にあった曲ですね。めっちゃメロディにこだわった曲かな。一音一音。『Flyer's Waltz』とかは、誰にも歌えなくても良いと思ってるんですよ、俺にさえ歌えれば。世界で俺にしか歌えない曲をいっぱい書いてきた気がしてて(笑)、『花』とかカラオケで入れ辛いわって思って(笑)。『BLUE』は誰にでも歌えるくらい大きいメロディを書きたかったってのがあった。それもあってギターソロはスゲーシンプルなんですよね。めちゃくちゃ考えて作ってたので今までで一番メロディックなギターソロだし、イントロのメロディも今までで一番良いと思ってる。
●華やかでキラキラしてて。歌詞的にはどうですか?10周年の区切りかな。
佐々木:そうすね、これはまだバンドの喧嘩とかある前に書いてたので、この一連の流れの、「プレNew Tribe」って言うか(笑)、この曲一番良いメロディが入ってるけど、確信を持とうとしてる状態かな。それが段々固まっていくのがこのアルバムのストーリーで。うん。だから『Flyer's Waltz』でお前が飛んで来いって言ってるけど、これは自分が覚悟を決める最後の所。だから歌詞も一人称だし。今までは覚悟を決めるタイミングの曲が入ってましたけど、これはそこから先のアルバムだから。

●次は『ジュテームアデューベルジャンブルース』
佐々木:これはビートから作ったかな。シャッフルビートな感じで、ちょっとガチャガチャしてるんだけど、コードが…これはベルギーのテロの後に書いた曲で、ベルギー生まれでジャンゴ・ラインハルトって人がいて、俺ジャズバーでバイトしてた事もあって凄い好きだったんで、改めてそれを研究したんですよね。改めて今思ってるんですけど、ジャズバーでバイトしてた頃の感覚ってめっちゃカッコイイ音楽いっぱいあるなと思ってて、フラッドが進めば進むほど、あの頃の感覚って取り入れられないと思ってたんですけど、それが去年ビルボードでライブした事によって、「あ、今ならもっと取り入れられるかも」って。それも一つのチャレンジの形かな、楽曲として。
●歌詞的には?
佐々木:結構そのまんまって感じなんですけど(笑)。『ジュテームアデューベルジャンブルース』って最初に思いついて。よく意味は分かんないんですけど(笑)。
●(笑)時代を唄ってる感覚がありますね。
佐々木:そうですね、結果そうなっちゃいました。ヨーロッパの良い所って地続きなんですよね。車で国境が越えられちゃうからあやふやだし、EUみたいな共同体が生まれると思うんだけど、日本と中国と韓国と北朝鮮で共同体って絶対無理だと思うんですよ。テロとか、日本の地震もそうなんですけど、心配したりは出来るけど、その後にどういう行動をするかなーって思って。会いに行くだけでも良いと思うんですよ、究極。行くとそこから何か始まったり生まれたりするから。これは心配してるだけじゃなくて行動するっていう宣言の曲かな。まだベルギーに行けてないけど。

●次はゴキゲンな『Rock'N’Roll New School』これ最高ですね(笑)。
佐々木:(笑)。最高なんです。これはギターのイントロから作りましたね。ジャジャッジャ!って。ロンドンで『BLUE』、『Flyer's Waltz』、『El Dorado』の3曲録りましたけど、この曲もかなり早かったはず…。でもメロディ作るのが結構遅かったかな。このタイトルを付けてから歌詞が出来たかな。
●資料に、知り合いのお子さんからインスパイアされてってありますけど。
佐々木:ああ、俺、最近身近な人との別れが多くて。何人か亡くなられてるんですけど、そのお子さんの事で。その子と遊んでるとちょっとしたドリルとかあって懐かしいなって思って。漢字ドリルとか点線が書いてあってそれをなぞって覚えるじゃないですか?字上手いじゃんって思ったらめっちゃ点線からはみ出てて(笑)。めっちゃカッコよかったんですよ。「起立・礼・着席」は本当はしなきゃダメなんだけど、もしそれが出来なかったり、何かからはみ出しそうになっても、間違ってないよって。良いと思ってそっちに行ったんなら間違いまくりでも良いんだって。でもそん時に「これが良いんだ」って思えるかどうかが凄い大事だから。どんだけMP3になっても俺は音作りを絶対サボんないって言ってる人もいて。自分をサボんないって感じ。あと、Rock'N’Roll New Schoolってイベントもやってたんで、俺もそのイズムを受け継いでいこうと思います。

●7曲目はトーキンブルースですね。『El Dorado』
佐々木:これは、俺とナベちゃんに尽きるかな。こんなに歌詞があんのにドラムが一番大事ってアレですけど。ナベちゃんのドラムがこの曲だけ3段階あって、まず一番最初が、ギターリフ持ってってこんな感じにしてくれって、ほぼこのリズムパターンのままオーダーしたんですけど、むちゃくちゃ否定されて。スカスカの間があるビートで、リフが細かくて、半分のテンポでドラムを刻んで言葉が2倍とか3倍刻みをやりたかったんですね。そのフィーリングって前のミクスチャーロックや昔のHIP HOPじゃなくて、2010年代以降の感覚なら新しいミクスチャーロックが出来るなと思ったんですけど、ナベちゃんとめっちゃ揉めて。いや、違う!新しい音にしたい!って、話しまくってどうにか説き伏せて(笑)これになったっていう思い出と、真ん中で倍テンになるんですけど、そこをちょっとライトな感じに叩こうとしてたんですよね、それはナベちゃんのイメージで。実はロンドン持っていった3曲の中ではザブは一番この曲を気に入ってくれてて。で、音録ったらマジカッコイイビートで出て来て。ナベちゃんがライトに叩いてた所をザブがもっとドカドカ叩け!って。そこでナベちゃんが一瞬抵抗したけど、ザブが言うとおりにやってみたらめちゃめちゃカッコイイテイクになって。で、3段目は、チェックした時にザブとアシスタントのアレックスっていう奴がいたんですけど、アレックスはマドンナのドラム録ってるんですよ。
●おー。
佐々木:ドラムのプロだったんですよ、2人とも。レコーディングとミックスのエンジニアは分かれてるから、ザブはミックスよりレコーディングの方で有名だったらしいんですけど。ミックスされた時の、ドラムの音がマジ完璧で。俺がこうなったら良いなと思ってたイメージの更にその先をエクストリームな感じで。このドラムの音はマジあんま無いんじゃないかなってくらいカッコよくて。
●そこが聴き所って事ですね。