■2017.02.25 京都磔磔
Analogfish
KYOTO TO TOKYO 2017 "felicity"
REPORT[2017.04.19]

毎年2月に京都と東京でおこなうAnalogfishのワンマンライブ、「KYOTO TO TOKYO」。今年は開催5年目を記念して、それぞれの都市で2日間ライブをおこなうことになった。(ちなみに京都に限って言えば、この時期に磔磔でワンマンライブをするのはこれまた記念すべき10年目!) ライブでやらなくなってしまった古い曲を積極的に掘り起こす意図でやっているライブなのだが、今年は今までと趣向が異なっていた。2月25日の"felicity"と名づけられたライブは、2008年以降、主にfelicityからリリースした作品からの選曲で、翌日2月26日の"EPIC"は、2004年~2006年にEPICレコードからリリースした作品からの選曲。つまり2日間完全別メニューで、彼らのメジャーデビューから現在までを丸ごと振り返るスペシャルな企画なのだ。(2008年の『FISH MY LIFE』のレーベルはfelicityではなくPORT RECORDS/QUATTRO DISC、2010年『Life Goes On』はP-VINEであるが、EPIC以降の作品ということで"felicity"の選曲対象になっている)

フロア後方の階段を降り、客席を抜けてステージに上がった佐々木健太郎(Vo. Ba.)、斉藤州一郎(Dr. Vo.)、下岡晃(Vo. G.)の3人。下岡が「こんばんは、Analogfishです。はじまるよー」とゆるく挨拶し、『平行』でライブスタート。felicity時代の曲だしそれほど昔の曲ではないと思ったが、2010年音源化の曲だった。もう7年も経つのか!と彼らの長いキャリアをいきなり思い知らされる。イントロのドラムが鮮やかに鳴らされて、『My Way』へ。ドラムとベースが織り成す熱い緊張感が最後まで続く。そして、最近の彼らの代名詞的大名曲、『No Rain (No Rainbow)』。普段のライブでは最終盤に演奏することが多いこの曲を序盤にやってしまうのか!と驚いたが、そうだ、今日は選曲対象が多い"felicity"だから、この後も大名曲が控えているのか!と気づいて興奮する。下岡がひとつひとつの言葉を丁寧に歌っていたのが印象的だった。間髪を入れず『Sayonara 90's』。90年代も終わってゼロ年代もとっくに過ぎて、もう今は2010年代後半なのだけど、相変わらず希望の歌として確かに響いていた。ステージ上と客席とで全力で叫ぶ「かっとばせー!」の爽快さ、痛快さは、いつだって鮮烈だ。

ここまで4曲続けて下岡曲、ここから7曲連続で佐々木曲という面白い構成になっていた。『ロックンロール』と続く『Will』では、佐々木曲のポップさとグッドメロディが堪能できる。軽快で気持ち良い。どちらも斉藤のドラムの多彩なパターンと細かなシンバルワークが堪能できる曲なので、思わずドラムに釘付けになってしまう。『ハッピーエンド』と『Clap Your Hands!』のどんどんと前に進んでいく感じが心地よい。『Clap Your Hands!』は2008年の曲で、もう10年近く経つのか!と驚く。とにかくライブが始まってから驚きっぱなしである。
佐々木の「明日の"EPIC"もあるから、2日分で50曲くらい練習しました。僕ら記憶力が低下してて思い出すのも一苦労で、晃に至っては自分の曲なのに歌詞を僕に訊いてくる(笑)」という微笑ましくも壮絶(?)な内容のMCから、『風の中さ』と『Tired』。『Tired』は佐々木が描く鬱屈した世界が、その暗さを保ったまま昇華した曲だ。美しい。

続く『Ready Steady Go』と『はなさない』は、それぞれ1本の映画を観ているような演奏だった。『Ready Steady Go』は美しく壮大な青春映画、『はなさない』は熱く切ない恋愛映画。どちらも画とストーリーが見えるかのような演奏で、感触の違う2本立ての映画を観た気分になった。日常の風景や心情をより大きく普遍的な表現へと変容させていく彼らの力量を堪能した。

『Baby Soda Pop』は佐々木がソロ活動を経てポップさに磨きをかけた、その集大成といっていい曲だと思う。そして続く『Good bye Girlfriend』は佐々木の叙情性の集大成。彼のソングライターとしての一つの到達点を示す2曲だ。『Tonight』はAnalogfishの個性の一つ、3人のコーラスが堪能できる曲だ。続く『Nightfever』は、『Tonight』の祝祭的な夜の描き方とはまた違う、浮遊感のある夜を描く。2人のソングライター、佐々木と下岡が持つ視点や描く世界の違いを再確認する。

『There She Goes (La La La)』で高揚し、踊るフロア。続く『荒野』では、下岡が歌詞に合わせて身振り手振りをする。それに応えて客席からレスポンスが起こる。その熱量が尋常ではなく、それを聴いて胸が熱くなった。ここがライブの最大の山場だった。それゆえ私はてっきり、これで本編が終わると思いながら観ていた。『There She Goes (La La La)』 で気持ちよく踊って、『荒野』で熱いメッセージを示す。それぞれ、締めにふさわしい力を持った曲だと思ったのだ。
しかし、まだまだ終わらなかった。ここからいくつも山があったのだ。『PHASE』と『Fine』でさらに盛り上がっていく。『Fine』では佐々木お得意のウインドミルでピックが飛んで、ドラムセットを越えて下岡の後方に落ちるという最長飛距離(?)を記録。続く『Hybrid』でも終わらず、『抱きしめて』でも終わらず、23曲目の『最近のぼくら』でようやく本編を締めた。つまり、ワンマンライブの締めにふさわしい曲がゴロゴロあって、今日のライブではそれを惜しみなく演奏していたということだ。終盤、盛り上がる曲を畳み掛け、最後に『最近のぼくら』をクールに演奏して、さっとステージを降りて後方の階段を上っていく彼らの後ろ姿がかっこよすぎた!

拍手に促されて応じたアンコールは『TEXAS』。2005年のシングル『スピード』のカップリングバージョンではなく、 2011年の『失う用意はある?それともほうっておく勇気はあるのかい』のバージョンで。まるでfelicity時代とEPIC時代をブリッジするような、翌日に繋がる選曲だった。

この日、彼らはスリーピースの無敵感を撒き散らしながら、2008年以降の曲を演奏し続けた。振り返ると、2008年以降の彼らは波乱万丈だった。2008年に斉藤が脱退し、佐々木と下岡は2人でバンドを続けると決めて、ドラムやキーボードのサポートメンバーと共に前に進んでいった。その後、2009年に斉藤が復帰。そこからはスリーピースのより洗練された在り方をストイックに追求しながら、メッセージ性の高い楽曲を発表し続けてきた。"felicity"は、彼らが紆余曲折を経て成熟していく過程を2時間に凝縮させた、そんなライブだった。 (文章:山岡圭)

SET LIST "felicity"

01. 平行
『Life Goes On』 2010年
02. My Way
『NEWCLEAR』 2013年
03. No Rain (No Rainbow)
『Almost A Rainbow』 2015年
04. Sayonara 90's
『FISH MY LIFE』 2008年
05. ロックンロール
『荒野 / On the Wild Side』 2011年
06. Will
『Almost A Rainbow』 2015年
07. ハッピーエンド
『Life Goes On』 2010年
08. Clap Your Hands!
『FISH MY LIFE』 2008年
09. 風の中さ
『失う用意はある?それともほうっておく勇気はあるのかい』 2011年
10. Tired
『Almost A Rainbow』 2015年
11. Ready Steady Go
『Life Goes On』 2010年
12. はなさない
『最近のぼくら』 2014年
13. Baby Soda Pop
『Almost A Rainbow』 2015年
14. Good bye Girlfriend
『NEWCLEAR』 2013年
15. Tonight
『最近のぼくら』 2014年
16. Nightfever
『最近のぼくら』 2014年
17. There She Goes (La La La)
『最近のぼくら』 2014年
18. 荒野
『荒野 / On the Wild Side』 2011年
19. PHASE
『荒野 / On the Wild Side』 2011年
20. Fine
『荒野 / On the Wild Side』 2011年
21. Hybrid
『荒野 / On the Wild Side』 2011年
22. 抱きしめて
『NEWCLEAR』 2013年
23. 最近のぼくら
『最近のぼくら』 2014年

En. TEXAS
『失う用意はある?それともほうっておく勇気はあるのかい』 2011年