下岡晃(Vo. G.)は序盤、「KYOTO TO TOKYOでは、普段やらない曲や、...やる手間がかかる曲をします(笑)」とユーモアを交えてこのライブを説明し、一方、佐々木健太郎(Vo. Ba.)は終盤、「みんなが昔の曲も大事に聴いてくれているのが伝わってきて、涙腺がやばかったです」と少し照れながら語った。そして斉藤州一郎(Dr. Vo.)はいつも通り、そんな2人を後ろから穏やかに見守っていた。
「KYOTO TO TOKYO」は、毎年2月に京都と東京でおこなうAnalogfish恒例のワンマンライブ。その6年目の東京編、新代田FEVERはめでたくソールドアウト! 昨年4月より半年間の充電期間を経て10月にライブ活動を再開したAnalogfishは、それ以降サポートギターにRyo Hamamotoを加えた4人編成でライブをおこなっている。
4人が登場し、ステージ上手から、下岡、佐々木、Hamamotoが横一列に並ぶ位置にセット。1曲目は『リー・ルード』! 「リー!」「ルード!」と掛け合いながら叫ぶ、テンションが高い曲。長らくライブでやっていない曲からのスタートに客席から歓声が上がる。その後、その勢いのまま、立て続けに『LOW』と『紫の空』。ギターが2本あるから当然なのだが、きっちりギターがうるさくなっていた。もちろんいい意味で。『Watch Out (サーモスタットはいかれてる)』では、Hamamotoがイントロから飛ばしまくって客席が一気に沸き、ギターを降ろしてハンドマイクになり自由度が高まった下岡は動き回って観客を煽る。
ここまで聴いて、全ての曲の強度が相当増しているのを感じた。ギターが1本増えているから当たり前なのだが、昨年10月に観たときよりもHamamotoがバンドに馴染んでいて、彼の存在が大きくなっているからなのだろう。時折、激しく主張するようなフレーズを弾くし、客席を煽るような仕草をするのだが、それがよくフィットしているのだ。ここ近年このイベントで見られた旧曲の大幅なリアレンジはなかったが、ギターを増やしたことで全ての曲をアレンジし直しているようだった。そのアレンジは寄木細工のように隙がなく、それでいて一つ一つのパーツの個性が活かされていた。
特に、『こうずはかわらない』と『Baby Soda Pop』の変貌ぶりに驚いてしまった。先ほど言ったように、大幅なリアレンジはない。しかし、これらの曲では、Analogfishの3人にギターを足して、単なる足し算ではなく、掛け算でもなく、まるで2乗や3乗の勢いで駆け上がっていったのだ。一気に加速して遥か彼方に疾走していく『こうずはかわらない』を、半ば呆然と、半ば感動して聴いていた。『Baby Soda Pop』は音源では爽やかな曲調なのだが、この日はバンドサウンドによって曲自体が強い力を帯びていた。多彩な音を全身に浴びながら聴いていると、ここを起点として宇宙まで飛んでいけるような気がした。大げさだが、そんな不思議な感覚になった。
今回披露された新曲は2曲、どちらも下岡ボーカルだった。まず、『Sophisticated love』(仮タイトル)。繊細なギターと面白い動きをするベースライン、そしてタイトル通り繊細な歌詞。「どうにかなりたいのに なってしまいたいのに どうにもなれない2人はどうするの?」という歌詞は、よく似た言葉を並べた単なる言葉遊びのように見えて、深い意味を示唆しているように思える。いかにも下岡の曲らしい。もう一つの『静物』(仮タイトル)は、うって変わって不穏なイントロから始まって、途中、下岡が「愛しているなんて言っちゃいけないと思っていたよ」と叫ぶように歌うのがぐっとくる。
ここから終盤へ向けて畳み掛けていく。『最近のぼくら』では、野太いベースの上にギターが色々なフレーズを乗せていく。さらにドラムも手数を増やして遊ぶ。ごつごつとぶつかりながら変形していくアンサンブルが楽しい。『There She Goes (La La La)』では、華やかなイントロとともに客席から一気に歓声が立ち上がる。感動的な光景だった。続く『Na Na Na』と『アンセム』は、これぞAnalogfishと言える、でっかい声で掛け合うコーラスが最高だ。ドラマチックな『No Rain (No Rainbow)』ではいつも胸がいっぱいになってしまい、嵐のように駆け抜けるアウトロでは涙ぐみそうになる。歌詞を一つ一つかみしめて聴きながら、「無償の愛なんて本当にあるのか?」と自問自答してしまうのだけれど、最後には確実に希望が見えてくるのだ。そして、このライブを観られた喜びとライブが終わってしまう寂しさが入り交じる中、最後は『ハローグッバイ』。幸福感溢れる名曲だ。
本編が終了しても長く続く拍手に再び出てきた4人。ソールドアウトを喜びつつも、「Analogfishのお客さんって、チケット買うの遅いんですよ!」「みんなギリギリに買う」「ちなみにライブ直前5日間でこんなに売れたのは初めて」とチケットの売れ行きについての言及があり、「チケットはお早めに!」と下岡と佐々木が口を揃えて言ったのには客席も爆笑。
アンコールは、『Ready Steady Go』と『PHASE』。それでも拍手は止まずダブルアンコールとなり、そこで夏の恒例ライブ「Natsufish」の開催が発表された。先ほどのMCに絡めて、下岡が「早めにチケット取って!」と言うと場内が歓声と笑いに包まれた。最後は『Hybrid』で熱量高く締めくくった。
ライブ全編を通して、古い曲でも新しめの曲でも、1曲1曲ごとに大きな歓声が上がるのが印象的だった。冒頭に佐々木の発言を書いたが、どの曲をやっても「待ってました!」という反応が客席から来るのだ。新旧バリエーション豊富な曲を用意するバンドと、それを心から楽しみにしているファン。曲と歓声、その一つ一つにAnalogfishの歴史が表れているようだった。
毎年同じ時期に同じバンドのライブに行くと、「あの時はこうだった」と過去と比較しやすいのだが、ギター2本の4人体制Analogfishは、表現できる幅と奥行きが広がって一回り大きなスケールで演奏していた。想像を超えて素晴らしかったので、「3人に戻った時に大変なのでは? 次は一体どうなるの?」と要らぬ心配をしてしまった。こんなことをやきもき、いや、わくわくしながら観るのも楽しい。
下岡はMCで、「新譜については、そう遠くない時期にアナウンスできると思うので楽しみにしていてください」と言っていた。Natsufishではきっと多くの新曲が聴けるだろう。寒さが特に厳しかった今年の冬が終わり、ようやく春が来つつあるが、もう気持ちだけは真夏に馳せている。
(文章:山岡圭)