ネモト・ド・ショボーレ対談連載
TALKIN' REC TAPES #1ゲスト:渡辺大知(黒猫チェルシー)
SPECIAL[2014.04.02]
ネモト:そういう意味で嬉しかったこともたまにあって、現在エッセイスト、イラストレイターとして活躍してる人が居て、うみのてを好きで聴いてくれていて、面識持ったのでツイッターで話したら、ショボーレ3の7inch持ってますってツイッターであげてくれたりとかして。こういうところまで届いてたんだなーって。自分のやってたことを見たり聴いたりしててくれた人が何者かになっていることが嬉しかった。大知君の映画を見た子が何十年後かに何者かになって会えたら嬉しいじゃん。
渡辺:超嬉しいですね(笑)。
ネモト:そのためにやってるわけじゃないけど…
渡辺:いや、そのためにやってる気もしますよ、実は。
ネモト:自分がやってきたことに意味があったんだなって思えたことが嬉しい。そのためにやってるわけじゃないけど、そのためにやってたのかもなって後付けで思えるっていうか、それはロマンだと思う。十何年音楽に関わったり自分でもバンドやってて、それが世の中に発表されると世界中に聴く権利があるじゃん。凄く遠くのどっかの人がそれを聴いてていいなって思ったりして、でもその人とは一生会うことはないわけじゃない?でも何かのタイミングで会っちゃうこともある。それって凄いロマンで。それを十何年やってると実感出来ることが数回あるんだよね。
渡辺:それはロマンですね。夢あるわぁ。年下のバンドで爆弾ジョニーってバンドがいてめっちゃ好きなんですけど、僕が初めて札幌でライブをしたのをボーカルが見に来てくれてて、その時にCD-Rもらったんですよ。それで爆弾ジョニーがデビューした時になんか聞いたことあるなって思って、初めて年下のバンドでCD買ったんです。それで初めて対バンした時に楽屋で「渡辺さん、覚えてますか?」って言われて「やっぱそうやんな。覚えてるわ」って言って。そしたら「バンド組んだばっかりの時、黒猫チェルシーのコピーとかしてたんっすよ」って。そういう奴に今俺はむしろかっこいいな、悔しいな、負けねぇぞって思ったり、ライバルになってて。
ネモト:逆もあるよね。10代の頃にもの凄い憧れてレコード買ってライブにも行ってた人と出会えたりね。俺は17歳くらいの頃LAUGHIN' NOSEがめちゃくちゃ好きで憧れてたんだけど、The Mighty MogulsのライブをPONさんが見てくれて人づてに良かったって言ってくれてたことを聞いて、アルバム出した時にコメントをもらったりした。それは10代の俺にはありえない出来事で、そういうことが起きるからね。
渡辺:ドラマっすよね。
ネモト:時間が経たないと起きないドラマだね。音楽とか映画を観る時に俺は肯定から入るタイプなんだけど、いい所をまず見つける。だからこの仕事が出来てるんだと思う。で、いい所を見つけようとしているにも関わらず、嫌なところしか見えないものは本当に嫌い(笑)。
全員:(笑)
ネモト:今の自分には必要ないんだなって思う。10年後の自分は好きになるかもしれないけど保険はかけたくなくて。嫌いって思っちゃうと後で好きになるかもしれないからみたいな保険ね。その時に嫌いって思う自分を信じたいじゃん。そこで保険かけちゃうとぶれちゃうんだよね。
渡辺:俺も嫌いなものはすっごいはっきりしてますね。「このバンドはクソだ」とか「この映画監督は全員観るな」とか、そういうことを言っちゃうんですよね。
ネモト:それでいいと思う。いつかその発言は返ってくるかもしれないけど、その時に「すいません!」って言えばいい。後でいいなと思った時に素直にいいって言えるか。「前に嫌いって言っちゃったし」って嫌いって言い続けるのは違うからね。例えば今渋谷系的な音楽好きなんだけど、当時は全否定してたから(笑)カジ(ヒデキ)君とかも敵だと思ってたり(笑)、今は仲良くさせてもらってて。渋谷系に関して言えば、敵だと思ってたし僻んでるところもあって。多分同じようなものを好きなんだけど、ああやってさらっとやられる感じに反発心があって。でも時間が経ったことで素直にいいんだって肯定出来た。
●時間が経つことで分かったり経験出来ることってあるから、そういう意味でも続けていくことって大事ですね。
渡辺:続けてる奴ってかっこいいなって思います。続けることって凄い難しい。バンドで一番勉強になったのは、こんなに色んなことがあって、こんなに色んなものを見せられるんだってことで。人生経験が増えていくっていうか。
ネモト:黒猫の場合は高校生の時からだし、色んなことがあったからね。
渡辺:こんなに続けることって大変なのかって。バンド組む前は組んだら一生続けていくもんだと思ってたし、でもやってたら辞めていくバンドも周りにいっぱいいて、有名なバンドも有名じゃないバンドもいなくなって、そいつらは生きているしまた会えるんですけど、人間は生きていてもバンドっていう一つの生き物は死んでるんですよ。バンドの人生を全うしていればいいと思うんですよね。勿体ないなって思うのは、まだこのバンドはやりきってない、可能性があるのにっていうもの、それは死んだって思いますね。
ネモト:無駄に延命措置をしてもしょうがないしね。
全員:(笑)
渡辺:だからゆらゆら帝国が解散した時は感動しましたね。だって『空洞です』を聴いた時にもう…本当に凄いなって。一つの人生を見せられたって感じ。
●あれでやりきったと言われたら何も言えないですよね。
渡辺:言えないですね。
ネモト:その後の坂本さんのソロもまた凄かったしね。ああいうものを見せられると自分は違う道を行くしかないって思う。一つのものを極めるのは自分には無理だって思ってるので。だけど自分なりのやり方、自分に出来ることをやっていくっていう。『アイデン&ティティ』のに出てくるボブディランの言葉じゃないけど。
渡辺:あれ、めっちゃいい台詞ですよね。「やらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ」。
ネモト:『アイデン&ティティ』はガロでも読んでて、ちょうど初めて読んだ回が「不幸なことに不幸がなかった」っていう台詞のある回で、もの凄いしっくりきたし感動して。ロックだと破天荒じゃなきゃいけないとか憧れを持つし、コンプレックスを持つけど、あれで救われた人沢山いると思う。普通でいいんだって。レーベルを主宰してバンドもやって、それに対して表現じゃないとか裏方に徹したらとか色んな意見があるのは分かってて、その上でやってる。あんまり決めたくないんだよね。何も起こらなくなっちゃうから。失敗してもいいんだよね。失敗と成功と同じだけ起こるはずだし、失敗したらその時に考えればいい。
渡辺:ベタですけど、失敗を恐れたら何も出来なくなっちゃう。
ネモト:でも世の中それが多いよね。子供が怪我するからこの遊びはしちゃいけないとか。
渡辺:(笑)。マジで狂ってきてますよね。
ネモト:逆にね(笑)。かと言って今の子供がかわいそうとは思わないけど、そういう価値観を見せられると窮屈だなって。こうやって大知君とは新しいこと、その時思ってることを話せるからいいよね。
渡辺:そうですね。
ネモト:今日も色々話せて良かった。

(文・小山裕美)
[NEWS!]
黒猫チェルシー情報
書き下ろし新曲「サニー」が、池松壮亮主演、橋本愛ら若手俳優の競演で話題の青春映画「大人ドロップ」の主題歌に。(渡辺は、辻本裕也 役で出演。)さらにはカバー曲「息子」(奥田民生)が挿入歌に決定!この2 曲を筆頭に2009 年~ 2014年の黒猫チェルシーベストアルバム『Cans Of Freak Hits』リリース。
http://www.kuronekochelsea.jp/

[PROFILE]
渡辺大知
黒猫チェルシー、ヴォーカル。
映画「色即ぜねれいしょん」(2009 年公開・日本アカデミー賞・新人俳優賞受賞)を筆頭に、NHK 連続テレビ小説『カーネーション』、NTT docomo CM、コカコーラCM 等、数々の映画・ドラマ・CM に出演。現在、日経電子版 新CM「田中電子版」に出演中。

[PROFILE]
ネモト・ド・ショボーレ
 POLYSICS、SCOOBIE DO、KING BROTHERS、THE NEATBEATS、毛皮のマリーズ、黒猫チェルシー、住所不定無職、うみのてetcなどを輩出したロックンロール・レーベル「DECKREC」主催。ギタリスト として、チロリアンテープ・チャプター4、THE NERDS、The Mighty Mogulsなどのグループに参加。フリーの音楽プロデューサーとしても活動中。
https://twitter.com/DECKREC