ネモト・ド・ショボーレ対談連載
TALKIN' REC TAPES #5ゲスト:フミヤマウチ【前編】
SPECIAL[2015.04.14]
ネモト:この間キングジョーとした対談でも話したけど、今のロカビリー、モッズ、ガレージパンクとかのジャンル・ミュージックをやるバンドは当時の再現をしようと研究して、当時の楽器使ったりそういう衣装着たり、真面目な人たちが多いと思う。だけどザ・ヘアとかからはそういう真面目な感じはなかった。もっと恐い感じっていうか。
ヤマウチ:もっと皮膚感覚だよね。
ネモト:ヤンキーとはぜんぜん違う不良。
ヤマウチ:北沢さんとさとうさんとは「文化系不良」って話はよくしてた。最近そういう「文化系不良」いないよね、みたいな。
ネモト:ザ・ヘアのライブ行くと恐かったもん。
ヤマウチ:緊張感あったよね。その緊張感が緩和されたのは――お客さんはボーダーをどんどん超えて好きなものを追って越境するじゃない?そのお客さんだった人たちが表現者になった時にボーダーが崩れる。それがレモンちゃんたちの世代で起こったこと。
ネモト:後にその子達が橋を繋ぐ役目になったりするよね。
ヤマウチ:そういう特異点みたいな人たちがボーダーを壊していくイメージ。レモンちゃんとか山下洋とか。
ネモト:山下くんね(笑)。彼はモッズでも渋谷系でも何でもひょいひょいまたいでっちゃうイメージ。いい意味で天然でそういうところをひょいひょい行けちゃうんだよね。俺はちょっと確信犯的に、片足ずつ突っ込んでるタイプ(笑)。
ヤマウチ:山下くんは強烈に美意識の人なのに、スルッて越境するんだよね。本当にすごい。また、そういう越境者が排除されずにいられるのが重要で、意外とみなさん懐深いんですよ。俺やネモトくんが許される程度には(笑)。
ネモト:だから最低限の合格ラインはクリアされてたんだなーって(笑)。
ヤマウチ:そうね(笑)。これで俺らがメチャクチャとんちんかんでカッコ悪かったら、ここにはいないもんね。いや心の中ではとんちんかんでカッコ悪いと思われてるかもしれないけど(笑)。
モト:「あいつ、俺が気に入らないあそことも繋がってるけど、まぁ、こいつは分かってるからいいか」ってことだったんかな?(笑)。
ヤマウチ:モッズにもロカビリーにもガレージにも行き来している人もいて、美意識を守っている人たちもいて、それが全体として見た時に、古いものを愛しつつ新しいことをしてるっていう。それくらいのゆるやかさはあるよ。
ネモト:近親憎悪の原因になるのは、同じ古いものが好きなんだけど、新しいものを表現する時の表現方法が違うから認められなくなるんだよね。
ヤマウチ:いつから崩れたんだろうね?昔はドレスコードがあって、この服じゃ行けない場所っていっぱいあったでしょ?同じ60~70年代風でもここにはベルボトムははいていけないとか。
ネモト:この間キングジョーと対談した時にも話したけど、俺モッズパーカー着て「BACK FROM THE GRAVE」に行ったの(笑)
ヤマウチ:うわー(怖)。
ネモト:そうしたらTHE EVIL HOODOOのタクヤに「そういう感じなんだ?」って言われて(笑)。でもそういうのよく分かんなかったから良かったのかもしれない。
ヤマウチ:ドレスコードがユルくなるっていうのは、みんなが歳をとったのもあるし、若いお客さんが増えたのもあるよね。
ネモト:新宿JAMとかだとドレスコードが絶対なんだけど、下北に来るとぜんぜんなんでも良くなる感じっていうか、Tシャツにジーンズでも良くなった。デキシーがN.G.THREEとやり始めた頃から半々だったね。60’s的な古着の子と、ラフなTシャツにジーンズのギターポップ的な子と混ざって、どっちも影響を受け合ってた。こういう格好もしていいんだってお客さん同士のそういうのがあったのかな?って思う。
ヤマウチ:ザ・ヘアのライブにもスウェットパーカーの女の子とか来るようになってたね。初期のザ・ヘアのお客さんは本気度高くて恐かったから。お客さんがいちばんかっこいいんだもん。ザ・ヘアよりも(笑)。
ネモト:当時疑問に思ってたのは、モッズシーンで活動する本人たちがモッズである必然性はなくて、モッズが求める音楽をやるバンドがそういうバンドなんじゃないかなって。でもザ・ヘアみたいに純度の高いものを見せられると、あぁ~って思っちゃうっていうか。
ヤマウチ:ザ・ヘアの功罪だよね。良くも悪くもかっこよすぎたっていう。
ネモト:デキシーはここにはいけないなって感じはあったと思う。
ヤマウチ:デキシーってどこにいたんだろうね。不思議だよね。
ネモト:元々は本八幡とかのライブハウスから出てきたバンドだしね。
ヤマウチ:そうなると意外と「ハルメンズの話から始めようか?」ってなっちゃうよね。
ネモト:元々は、ネオGSの頃から活動してた、ザ・ギャザーズ周りにいたバンドで、だけど新宿JAMスタのモッズやガレージシーンには入れないような。
ヤマウチ:でもデキシーの後進への影響ってすごいよね。あのアジテートスタイルっていうか客のあおり方とかさ。
ネモト:だからデキシー見てバンド始めた子とかすごく多い。未だに聴かせると影響を受ける若いバンドもいるし、ザ・ヘアにしてもデキシーにしても時代が関係ないっていうか。今のTHE BAWDIESとか好きな子とかに聴かせても全然響くだろうし。
ヤマウチ:デキシーはちゃんとまとめて若い世代に残してあげないと、色んな意味で損失はでかいよね。
ネモト:でもその当時の知名度はザ・ヘアよりもデキシーの方があったんだよね。ソニーにいったから。
ヤマウチ:そう、彼らはちゃんとソニーで闘ってたっていうのが重要だったよね。
ネモト:でもザ・ヘアは特別だったと思う。
ヤマウチ:そう、ザ・ヘアは特別だったんです。
ネモト:俺らの世代で90年代初頭に新宿JAMとかにいた人たちにとっては、本当に特別だった。あの頃の空気感は今でもすぐ思い出せる。

(文・小山裕美)
後編はこちら
[PROFILE]
フミヤマウチ
1969年北海道函館市生まれ。90年代初期にDJ BAR INKSTICKやOrgan Barのスタッフとして働くかたわら、和モノDJとして活動を開始。「自由に歩いて愛して」(DJ BAR INKSTICK)、「スネイク☆ナイト」(旧レッドクロス)、「Oh!Gentle Life」(次郎長バー)、「VIVA!YOUNG」(Club Que)といったイベントのレギュラーDJを務めた。90年代中期以降はタワーレコードのフリーマガジン「bounce」や「BARFOUT!」編集部に在籍しながらライターとしても活動。現在は市井の給与生活者。
https://twitter.com/fooming69

[PROFILE]
ネモト・ド・ショボーレ
POLYSICS、SCOOBIE DO、KING BROTHERS、THE NEATBEATS、毛皮のマリーズ、黒猫チェルシー、住所不定無職、うみのてetcなどを輩出したロックンロール・レーベル「DECKREC」主催。ギタリスト として、チロリアンテープ・チャプター4、THE NERDS、The Mighty Mogulsなどのグループに参加。フリーの音楽プロデューサーとしても活動中。
https://twitter.com/DECKREC