ネモト・ド・ショボーレ対談連載
TALKIN' REC TAPES #5ゲスト:フミヤマウチ【後編】
SPECIAL[2015.04.22]
ヤマウチ:やっぱりハコで働くとさ、変な自分のこだわりとかなくなるよね。俺もDJ BAR INKSTICKで働いたことでパンクの人たちとも仲良くなったし、そういう自分のジャンルにこだわってると仕事にならないし、単純にグッとくるのがジャンルじゃなくなってくる。
ネモト:あー!分かる!
ヤマウチ:わぁこれかっこいいな!って思うのが、それまで普段聴いてなかったサイコビリーのバンドだったりってこと、いっぱいあったから。
ネモト:ど真ん中にはひとつのものがあるんだけど、取り囲むものが増えていく。
ヤマウチ:だからね、若くなくてもいいけど、ハコで働く経験って重要かなって思いますね。
ネモト:でもひとつ思うのは、ブッキングをする人間として入っちゃうと結構きついかな。俺はドリンクだったから、ちゃらちゃら遊んでたって感じ。立ってるだけでいいから(笑)。
ヤマウチ:でも本当音楽に携わりたい人とかハコで働くのはいいと思いますよ。
ネモト:意外と近道だと思う。人脈出来るし。
ヤマウチ:自分さえオープンマインドでいれば、自分を助けてくれる人もたくさんいるから。
ネモト:だけど、俺は働いている時は何にも考えてなかったから、完全に結果論でしかないけど(笑)。あとコテコテのライブハウスじゃなくて半クラブみたいなところだったのが良かった。INKSTICKもそうだけど。これが完全にライブハウスだったら違ってたと思う。
ヤマウチ:俺もライヴスペースのない完全なクラブだったらきつかったかもしれないなあ。
ネモト:クラブに来てる常連のお客さんとかとも仲良くなれたしね。
ヤマウチ:クラブは長期滞在型だからね。わりとじっくりお客さんとコミュニケーションとれる。ライブは最初と最後だけだからね。
ネモト:オールナイトのイベント終わってからもまだ飲んで、家に帰るのお昼過ぎとかそういう世界だった(笑)。Queの隣にモスバーガーが昔あって、そこにお昼の12時過ぎくらいまで溜まるっていうのが常だった。
ヤマウチ:渋谷でいうと、井の頭線の改札近くに山家っていう24時間営業の焼鳥屋さんがあって、そこは結構重要。DJ BARを5時までやってそこからみんなで飲もうかっていうとたいてい山家になる。そこで分かったのは、昼間っから酔っぱらってる人いるけどあれって俺らだったんだ!ってこと。昼間から飲んでるわけじゃなくて、夜が終わってないだけだったっていう(笑)。
ネモト:夜を終わらせたくないんだよね。クラブ文化ってイベント中だけじゃなくて、終わってからのことも大事だったと思う。
ヤマウチ:そうだね。DJ BARの営業終わって掃除とかしてると、BIKKEがひょっこり顔出してスタッフみんなを飲みに誘ってくれるのね。一度なんかBIKKEに連れて行かれた先に山崎邦正がいた(笑)。BIKKEってすごい重要人物。ドラクエで言う「あそびにん」の究極みたいな人じゃないですか。
全員:(笑)
ネモト:SOULSETのメンバーってみんな重要だったよね。原宿に住んでた頃、その辺にいた美大や服飾系の知り合いはみんな俊美さんのこと知っていて、その頃俊美さんがバンドやってるとか知らなかったけど、「原宿の顔」って感じだった。
ヤマウチ:SOULSETの立ち位置ってすごく自由でびっくりする。あの頃はハードコアパンク系のイベントとかにもちょいちょいブッキングされてて、よくそんなアウェイで演ってたなって思うよ。SOULSETはちょっと特別。ものすごく敬意を持っている。
ネモト:ヤマウチさんの中でザ・ヘアは別として、特別なバンドとかっていますか?
ヤマウチ:SOULSETもそうだし、あとは地方の人――名古屋、大阪、福岡にすごい人たちがいて。名古屋のThe Other界隈の人たちとか、福岡のBEAってイベンター会社の森さんとかね。
ネモト:地方は本当に純粋培養されたキチガイがいるから(笑)。
全員:(笑)
ヤマウチ:大阪も、今は横浜にいるけどLABCRYの三沢くんとか、ユーゾーズのキョウベイくん、ちぇるしぃの馬場くんとかね。
ネモト:ちぇるしぃはDVD出ますよ。
ヤマウチ:マジで!?
ネモト:幻のセカンドアルバムがあって、レコーディングも終わってて、マスターテープがあったんだけど、劣化しちゃってて聴けなくなっちゃって。
全員:(笑)
ネモト:それをニートビーツの真鍋くんに頼んで、イギリスにまで送ったけど駄目だったって。それで解散ライブの映像をDVD化することになった。
ヤマウチ:もったいねえ(笑)。それにしてももっとね、地方で起こっていた出来事が語り継がれてもいいと思うんだよね。
ネモト:高松のホリチさんとかも色んな人に知って欲しいなって思う。高松にジョニー・サンダース呼んで、自分ちに泊めた人(笑)。今、モンドダイヤモンドっていう、昭和歌謡やGSの曲をガレージパンクネタでマッシュアップしたみたいなカッコいいバンドやってる。
ヤマウチ:渋谷系っていうけどさ、じゃあその時ほかの都市はどうだったんだ?って。土地土地に同時代性と独自性があるから、まとめて読みたいなって思ってる。
ネモト:多分東京だったら、金沢のショットガン・ランナーズみたいなバンドは生まれなかったよね。
ヤマウチ:ホント、そうだよね。
●そういう本があったら読みたいですね。
ヤマウチ:でしょ?
ネモト:書いて下さいよ。色んな人にインタビューして証言取って。
ヤマウチ:やっぱり名古屋の大須界隈の特異性はちゃんと伝えたいよなぁ。和モノのエリート大集結してんの。本当にすごい。鈴木パンサーくんの博識と表現力とか、松石ゲルくんがなんで登場してきたか、とか。
ネモト:ゲルくんはすごいっすね。面識はないんだけど、ネット上でお互い認識はしてて。2008年にDECKRECで「静岡ロックンロール組合」っていう、70年代初頭に静岡の高校生が自主制作したレコード(当時の中古レコード市場では10万円前後で取引されていた激レア盤)を発掘再発したんだけど、元々は鈴木くんが持っていたレコードからダビングした音源が日本中を旅して俺のところにたどり着いたのがきっかけで。