初めてのライブ教えてください Vol.3 口笛太郎さん
SPECIAL[2015.12.24]
ライブで出会う「気になる人」に、ライブの話をアレコレ聞く企画、第3回は音楽業界人でありながら口笛奏者としても活動されている口笛太郎さんをお迎えしました。「生演奏してくれるのを酒飲みながら見れるって結構贅沢な時間だと思う」と語る太郎さん、ディープな音学歴と音楽業界こぼれ話は興味津々でロングインタビューになりました!
●あ、そうですよね、途中、制作とマネージメント兼務してましたよね。
太郎:そうそう。だからもう、ようやくそこでキャンディーズのバックバンドを見た衝撃とともに決めた「スタッフになりたい」っていう初心と言うかね、20何年後に憧れの職業に就けたっていう。だからなりたかった職業になれたから幸せだと思います。10歳や11歳の時に、みんな新幹線の運転手になりたいとか、プロ野球の選手になりたいって言っててなれたのと、レベルはちゃうかも知れんけど。時代も良かったんでしょうけど。うん。
●じゃあメレンゲには思い入れが。
太郎:凄いある!うん。
●確かに制作の人があそこまで深く関わるのは珍しいですよね。
太郎:うん、寝食共にしたって言うか、だって大阪のキャンペーンとかツアーのメンバーの宿泊先、俺の実家やったからね(笑)。ウチのかあちゃんが朝飯作ってたっていうね。
●わはは(笑)。
太郎:凄い思い入れある。凄く可愛いし。うん。何かあったら彼らの仕事のプラスになるような事が出来ればなって。これはメレンゲだけじゃなくて、今まで関わったアーティスト皆そうですね。作詞の仕事があったら、今まで付き合ってきたシンガーソングライターの子を紹介したりとか。嫌いな人は絶対担当しないから、嫌な人は断るし。好きやと思った人しか仕事しないんで。でないと好きじゃないそのアーティストに失礼。担当や職務や会社が変わってもずっと付き合っていきたい人達しかやらない。
●はい、前に、アーティストは作品を作るのに命かけてるんだから、売る方も命かけないでどうする、みたいな事をおっしゃってて、だから太郎さんは本気の人だと思って凄く感激したんです。
太郎:うん。だって、卑怯者になりたくないって言うか、対等…アーティストとスタッフって対等になれないんですよ。どう考えても。アーティスト側はそんなこと考えてないかもわからへんけど、僕らって凄く守られてるんですよね、「会社員」なんで。物が売れようが売れまいが給料入ってくるし、でも、アーティストは売れなかったらほぼ…無給ですよ。そのかわり当たったら馬鹿みたいに金持ちになるけども。でもだいたい世の中の作品って9割くらい売れへんから、でも皆頑張ってるでしょ。なんかね、そこはやっぱり、こっちが「アイツは守られてるから適当にやってるな」って足元を見られた瞬間に、タレントって言う事を聞いてくれない。売れた時に言う事きいてくれなくなるし。だからそこら辺は彼らは凄い敏感って言うか、ちゃんと見てる。
●心が離れちゃうんですね。
太郎:そう、心が離れるし、上辺だけでしか付き合うてくれへんようになる。絶対僕は自分の言う事聞いて欲しいし、嫌だったら嫌って言ってもらってちゃんと話し合いたいから、そういう意味で彼らと対等になるためには、命かけて仕事するっていう姿勢を見せな無理やと思う。割り切った仕事の態度をとる人って一番横に居ちゃいけない人だと思うんですよね。
●ああ、クリエイティブな場面には。
太郎:そうそう。だから、一緒に、仕事にハングリーになってるっていう姿勢を見せないとあかんのかなって。凄い思う。口笛太郎として活動しててもそうやもん。裏方の仕事やりながら口笛太郎やってるけど、それやってる時は自分はアーティストだっていう意識はあるんですよね。そうすると、口笛太郎担当のディレクターとかもおるわけよ。ほんなら、ええ加減な人とか腹立つもん。どうしてもっとコミュニケーションとって良いモン作ろうと思わへんの?って。ダメ出しでも良いからキチっと考えてくれてんのかなって言うのは凄く思いますよ。だから、アーティストって孤独なのかなと思いましたよ。
●孤独? 
太郎:うん、仲良い友達はおるけど、いざ自分の作品とか、自分の演奏に関しては、凄い親身になってガンガン言ってくれる人って、あんまり実は居ないんだなって。居るようでいない、居ないようで居るけど、そういう人って凄い大事だし貴重。まぁ何人もおったらブレんねんけどね。やっぱり皆、遠慮して言わないっていうのもあるから。バンドとかロックの子なんかもっとそうなのかなって。ライブ終わって皆「良いね」しか絶対言わへんとかね。その時に「今日イマイチなんちゃうの?」とか「マジで良かった!」とか、ちゃんと、言ってあげるっていうか。それを言うには真剣にライブを見なきゃいけないし。全部命懸けっていうか、真剣に接してあげな失礼なんかなって、凄い思った。
●はい。ライブの見方なんですけど、演者でもあり、最初は観客で、業界の人でもあって、色んな部署を経験されて、ライブの捉え方って変わっていったと思うんですよ。そのあたりを教えてもらえたらなと。どういう所を良く見てるのかなとか。
太郎:ああ…。そうですね…何か、結局、レコード会社に入ってからは、ファンとしてあんまり純粋にコンサートは見なくなりましたよね。それは自社のアーティストであっても、他社のアーティストもそうなんかな。でも素晴らしいコンサートは本当に「はあぁ」って思ったりするし。例えばさだまさしさんのコンサートは100点満点なんですよ。これは素晴らしいなって、スタレビもそうでしたけど。でもなんかね、バンドの制作を担当するようになってから、30分の持ち時間で3、4アーティスト出てくるイベントライブを初めて頻繁に見るようになって、そうしたら何か、前のバンドとか後のバンドと比較できるので、上手い下手とかって分かるじゃないですか?
●ああ、そうですね。
太郎:だから、凄い演奏の技量とかが気になるようになったりとか、後はバランスとかかな。ハコのPAの良し悪しが凄い気になったりするようになりましたね。音が良いか悪いか。演奏は下手でもいいけど音がカッコイイかとか。あと、最近のバンド全般に言える事やけど、曲と曲の間にチューニングするとかね。そういうのが凄い気になり出しましたね。
●気になる??
太郎:その間、シーンとなるじゃないですか?あれが凄い気になる。凄い嫌い。
●でもチューニングは必要ですよね?
太郎:いやあんなんする必要ないと思うよ。毎曲、毎曲、そんなには狂えへんから。そんな事よりもバンバン飛ばして行ったほうがもっとグルーヴ作れんのに、とか。昔のコンサートとかってそんなにチューニングしなかったけどね。
●あー。ギター換えとかもあったかも。
太郎:ああ、ギター変えするんならパッと終わるやんか。あるいはMCでちゃんと繋ぐとか。でもMCもせずに10何秒とかチューニングだけでシーンとするみたいなんが、何か、そういうバンドが多かったから。無音の事に「え?」って思いますよね。昔、曲はメドレー方式でバンバン繋いでやってたけどね。それが僕にとっては普通だったから、高々30分くらいの演奏で何でチューニングやるんやろうなって。それは色んなバンド見ててそう思いましたね。多分あれって癖っていうか、儀式なのかわからへんけど。
●儀式(笑)。
太郎:あとは、もっとエンターテインメントな要素ないかなとか、もっと出来ないかなっていう目で見るようになりましたね。楽曲を演奏すると言うよりかは、もっとお客さんを楽しませる為にはどうした方が良いかなとか。昔見たコンサートもライブハウスのコンサートも、やっぱり良いなと思うバンドにはエンターテインメント性がある。別に踊ったりとかする必要はないけどね。何か30分やったら、その30分を如何に寸分の無駄も無く作り上げるかっていう努力をしてるバンドは好感持てたりとか。これはあんまりメレンゲには通じなかったけどね(笑)。今はアレはアレでいいもんだと思うけど(笑)。
●わはは(笑)。
太郎:そうそう(笑)。一秒も無駄にしないつもりで演ってくれって結構言ったけどね。あとは出音とかは気になるようになったかな。
●ハコとの相性とか、PAさんとの相性もあるし。固定で乗り込みとか出来る様になればまた別なんだけど。みんな楽器だけ持っていってお任せする所から始まるから、相性は大事ですよね。
太郎:そうそう。だからライブを職業的に見る事は…レコード会社に入ってからと言うよりは、制作をやり始めてからかも。自分のバンドとか、自分のタレントみたいな意識を持ってからかな、そういう見方になったのは。営業の時とかは、そこまで極端に厳しい目で見てなかったかな。あの、好きじゃないコンサートも行くようになるじゃないですか?仕事だとね、手伝いもあるし。でも、レコード会社に入るまでは好きじゃないコンサートには行く理由が無いので、大好きな人しか見てなかったし。仕事になって、それはそれで勉強になったけど、ちょっと俯瞰して見るようになったかな。粗を探すってわけじゃないけどより厳しい目で見るようになったのは制作になってからですね。
●なるほど。
太郎:エンターテインメントな30分をどうやって作るかみたいな事を凄く問うてましたね、色んな方法があると思うねんけど。そういうの「一生懸命考える」って「必ず伝わる」ってずっと思ってたから。
●伝われば見る人の購買意欲にも繋がりますしね。
太郎:そうそうそう。そういうのでお客さん増えるんちゃうかなって。

●今、音楽業界的に、結構みんな頑張らないと振るわないみたいなご時世ですが、みんな音楽を聴かないわけじゃないと思うんですよ。ただ、今後のライブのあり方とか、どう思われてるかなと。
太郎:ライブのあり方?
●そう、ライブの行き方を知らない人も多いと思うんですよね。情報は凄い溢れてるけど、実情は知らないというか。場所だったり行き方だったり、暗黙のルールとか。ドリンク代かかるとか。情報は溢れてるけど、意識しないとそこまで辿り着かない。
太郎:ああ、だからライブの情報がいかないんでしょうね。あとライブに足が向かないのもあるかもわからへんけど、一つは、8時始まりのライブがもっとあったら社会人が行けるのになって、ずっと思ってるかな。だって6時半スタートだったら来れないよ、社会人は。今Sissyってバンドに関わってるけど、例えば大宮付近で働いてますって子は下北に来るのに仕事5時半に終わってダッシュして間に合うかどうかとか。スリーマンで出番が頭だったらアウトとか、ワンマンでも6時半スタートじゃ間に合わないとか。始まるの遅かったら帰るのも遅いねんけどな。でも30分繰り下げるだけでも全然違うんじゃないかな。
●7時スタートが基本みたいな所ありますよね。
太郎:ワンマンだったら7時半スタートで9時半までとか、それならグッと来やすくなると思うんだけどね。イベントはわからへんけど、ツーマンとかならそれでもエエと思うんやけどね。学生は早くてもエエかも知れへんけど、社会人の子も平日ライブに来やすい様な時間っていうのはひとつあるかな。それと、やっぱり、ライブに行くっていう事をもっと日常的に、中高年の人達にも普通な事になって欲しいと思うよね。子供ばんど(80年代を代表するロックバンド)とか担当して感じたんだけど、やっぱりかつてロックを聴いてた人って、今でも機会があれば音楽を楽しみたいのに、来たくても来れない人は結構おるからね。なんかね、良いメンツでのツーマンとか、そういう「これなら行こうか!」っていう企画をもっと立てて全国ぐるっと回るとか。嗜好性の強い、方向性の近いツーマンとかのイベントを組んで全国とかやるとか。東京だけが恵まれすぎてるなっていうのはあるよね。
●あー、それは思います。
太郎:それはしゃあない。経費の事とか考えると。東名阪…広島、福岡、仙台?北海道は飛行機になっちゃうから、とかね。何とかして地方にエンターテインメントを届けたいなっていうのはある。僕ら東京にいるから良いですけど、ライブがない地方の人はCD聴くしか方法ないからね。それでCD売れへんようになってCD出せなくなったら本当にアーティストの音楽に接する事自体が無くなってしまうと思う。じゃそういう人たちは二時間好きなひとりのアーティスト聴きたいかって言ったら、まぁ聴きたいねんけど、それよりももっとエンターテインメントとして面白い組み合わせで二時間を作って届けれたら・・・とか。ダブルヘッドライナーとか、アメリカはたくさんあるじゃないですか?だから海外にヒントはあると思いますよ。そういう意味では。
●確かに前のほうは若者が居るけど、後ろの椅子席やバーカウンターには大人が居る文化があちらにはありますね。
太郎:そうそう。気に入らん曲があったらスッと出て行くし。それでまた好きな曲かかったらまた入るみたいな。それぐらい気軽な物であっても良いと思うしね。もっとグレーゾーンが取り込めるような。それと、もう一つやっぱり…ライブハウスは厳しいかも知れへんけど、子育てしてる人も見やすいような。30歳前後で子供を一人産んで、子供2歳ですとかっていう人で音楽聴きたい人おるはずやから、そういう人達もライブを楽しめる方法ないんかな~って。
●それは結構前から言われてますよね。大きな会場だと託児室があったりするけど。小箱では無いですもんね。それがあればもっと違うかも。
太郎:うん、イベントとか、そういう所作ればいいのになって思う。一日預けるわけじゃなくてコンサート見てる間だけなんやし。フジロックとか野外やったらちょっと厳しいと思うけど、都市型フェスやったら出来ると思うんやけどな。そういう意味でもっと全年齢的な、老若男女問わずライブが楽しめるような形をもっと全国に広げて欲しい。東京に一極集中っていうのは仕方ないとは言え、もっと何とか出来へんかなって。でも時間を遅くっていうのは出来ると思うけどな。やっぱり平日の時間だと思うよ。社会人の休日はさ、やっぱり休みたいもん。
●(笑)分かります。
太郎:ははは(笑)。そうでしょ?土日は休みたい社会人多いでしょ。平日は仕事帰りにお友達とご飯食べるのもええねんけど、欲を言えばライブの後に飯でも喰いたいけど、それは無理なお願いとしても、仕事を定時で終えて、ライブハウス向かって、それで無理なくライブ見れるみたいな。
●確かに社会人デビューするとライブ卒業って人も多いですよね。
太郎:多い。それはやっぱり良くないと思う。一番使えるお金を持ってるはずなのにね。
●では、これから初めてライブハウスに行く人に向けて、何かアドバイスがあれば。
太郎:そうやな…ライブハウスの何が良いかって言うと、飲みながら見れるんですよね。中高生は無理やけど、大人の人で言うと、本当に飲みながら見れるから、ライブハウスに行く前に、ちょうど良い所だと松屋の牛丼(小)くらいのね、ちょっとだけ小腹を満たして、ハンバーガー一個くらいの、お腹宥めてから行って、飲みながら見るっていうのは、ライブハウスだけだと思いますよ。別に酔っ払っても怒られへんし。凄い好きなアーティストが出るんやったら、それはそれでええねんけど、好きなジャンルのライブやってるわ…くらいの緩さで行って酔っ払いながらショーを見るっていう。アーティストをじゃなくて単純に生の音楽を楽しむのも悪くないよって教えたい。生演奏してくれるのを酒飲みながら見れるって結構贅沢な時間だと思うんですよね。そういう楽しみ方もあると思うから、あんまりライブハウスを特別な場所だと思わんほうがええと思うんやけどね。生演奏付きの飲み屋みたいな感じで思ってもいいと。ちょっと聴きたいなと思ったら、今はCD買うよりもライブハウス行ったほうが敷居は全然低いんちゃうかな。だってCD買わないけどライブ行きまくってる人もいるじゃないですか。それはそれで理由があると思うので。生演奏の面白さは絶対あるから。何か、新しい音楽に出会える場所でもあると思うんですよね。バンドとかアーティスト見るというよりかは音楽を楽しめるスペースっていう。そういう時間の楽しみ方が出来るのも大人なんかなって。結構贅沢だと思うんで。一万円かかったりしないし(笑)。大きい音で音楽聴けるってやっぱり意味がある、しかも生でね。そういう魅力を味わって欲しいなと思いますね。すっごいストレス解消になるから(笑)。
●はい、ありがとうございました。

(文・写真/朝倉文江)
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[PROFILE]
口笛太郎さん
ご本名でレーベルのA&Rとして働く傍ら、口笛太郎と名乗り日本を代表する口笛奏者として活躍中。A&Rとして制作を担当したアーティストは、メレンゲ、森広隆、ウェイウェイ・ウー、佐藤竹善、真鍋吉明(the pillows)、シアターブルック、仲井戸"CHABO"麗市、子供ばんど、Sissyほか多数。口笛奏者としてはNHK-BS「こころ旅」、関西テレビ「となりの人間国宝」など数々の番組BGMや、フォルクスワーゲンのCM、映画ほか数々の録音に参加。自身のアルバムも3枚リリース。レーベルに関する業務は、営業・宣伝・制作・配信・契約・管理・印税・権利処理のみならずバンドのマネージャーまで経験してる珍しい人です。ワタミと幸薄顔女性と秋を愛する中年男性。

主な作品:口笛太郎Duo『風とギターケース』『ジブリとギターと口笛と。』 『プレイズ・ビートルズ』
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